外国人を雇用する際には、英文の雇用契約書も用意しましょう。日本語だけで済ませると外国人人材を迎え入れたあとにトラブルが発生するリスクが高まります。契約内容について企業と外国人人材がしっかり共通認識を持つことが大切です。今回は、なぜ英文の雇用契約書が必要なのかという点とともに、作成時のポイントや注意点を詳しく解説します。

雇用契約書を英文でも用意すべき理由

雇用契約書は、企業と人材の双方が契約内容について認識が一致したことを確認・証明する書面です。記載すべき項目は多岐にわたり、外国人にとって自国の法律や考え方と異なる部分が多様に、しかも詳細に含まれます。

外国人人材の中には、日本語が読めない人も多いでしょう。話せるけれど読み書きは不得意、という人もいるはずです。確実に契約内容の認識を一致させるためには、英文、もしくは人材の母国語で作成することが望まれます。

日本語の契約書だけでは、あいまいな認識や誤解が起こりやすいです。英文化(母国語化)は、入国・入社後の労使間のトラブルを回避するために必要なことなのです。

特定技能の在留資格を取得するための申請では、雇用契約書の写しを提出する必要があります。企業には雇用契約書の作成が義務付けられているのです。「外国人を不当に搾取する企業ではない」ことを証明するためにも、契約内容を明確に記載した雇用契約書を作成しましょう。

外国人雇用のための雇用契約書作成のポイント

雇用契約書作成のルールは、人材の国籍を問わず適用されるべきものです。日本人人材と外国人人材に「差」をつけることは違法だということを理解しておきましょう。では、雇用契約書に必要な項目や作成時のポイントを解説します。

明示が必ず必要になるもの

雇用に際して、必ず明示しなければならない項目からチェックしていきましょう。

  1. 労働契約の期間
  2. 就業場所
  3. 業務内容
  4. 賃金額、および算出・支払い方法/締日と支払い時期
  5. 始業・終業時刻、休日、休暇、交替制勤務の詳細
  6. 所定労働時間を超える労働の有無
  7. 退職に関する事項(解雇事由を含む)
  8. 昇給に関する事項

上記のうち、(8)昇給に関する事項以外は、すべて「書面」にて明示しなければなりません。

労働契約の期間

外国人人材は在留資格によって、就労可能な期間(年数)が規定されていることが多いです。年数制限がある場合はその期間を適用し、更新の可能性の有無や更新の判断基準までを記載します。また、試用期間を設ける場合もその月数を明確に記載しておきましょう。

就業場所

外国人人材が実際に就業する場所を明記します。会社の事業所以外での就業が発生する場合も記載が必要です。また、転勤の可能性の有無も言及しておく必要があります。可能性があれば転勤先とその詳細を明記しておかなければなりません。

業務内容・役職・ポジション

業務内容について、外国人は日本人よりシビアに捉えます。業務内容のすべてをできるだけ具体的に記載することが大事です。正社員か有期の契約社員か、役職なども明記します。記載した業務以外をさせるとトラブルの発生確率が高まるので確実な認識を促しましょう。

就業時間

始業・終業の時刻、休憩時間についても明記が必要です。シフト制、フレックス制度などがあれば、それぞれ詳細に説明しておきましょう。シフトの決定フローや決定日などを記載します。また、契約上での所定労働時間外労働(残業)の有無の記載も必須です。

休日・休暇

法律上、休日は週に1日もしくは4週に4日以上付与しなければなりません。カレンダー形式で休日を提示するのもおすすめです。シフト制などで変動があれば詳細を説明する必要があります。休暇について有給休暇や慶弔休暇など取得基準も明記しておきましょう。

給与・賃金

給与の決定や算出の方法、また残業に対する賃金の算出方法などを明記します。支払い方法、月締日や支払日に関する記載も必要です。昇給についても時期やルールを明示するのが望ましいでしょう。
※昇給については口頭でも構わないとされています。

退職

退職に関する社内規定も明確に伝えておく必要があります。自己都合による退職の場合、何日前までにどこに(誰に)届け出る必要があるか、手続きの流れを明記します。詳細は就業規則(英文)などで解説しておくとよいでしょう。

就業規則等、制度を設ける場合に明示が必要になるもの

雇用に際し、社内規定がある場合に明示しなければならない項目もあります。

9. 退職手当の適用労働者範囲、手当額、算出や支払方法と支払時期
10. 臨時に支払われる賃金、賞与などに関する事項(退職手当除く)
11. 最低賃金額に関する事項
12. 労働者に負担させる食費、作業用品などの事項
13. 安全・衛生に関する事項
14. 職業訓練に関する事項
15. 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
16. 表彰及び制裁に関する事項
17. 休職に関する事項

退職金・その他の手当

社内の退職金制度や諸手当については、支給対象者や支給額・時期などを詳しく説明しておきましょう。金銭的な項目はトラブルの発生率が高いです。

外国人労働者の負担事項

外国人人材は、仕事だけでなく住居や食事など日本での生活全般のことをとても気にしています。自分が何について負担すべきか、会社が何をどの程度負担してくれるのかが明確にわかるように記載しておくのが親切です。

職業訓練

社内に職業訓練があることを魅力に感じる外国人人材は多いでしょう。ただし、内容だけでなく、その訓練中の賃金が変動する場合、訓練時間が業務時間外になる場合などはとくに明確に伝えることが重要です。

外国人雇用のための雇用契約書作成の注意点

では、外国人雇用に向けた雇用契約書の作成において、つまずきやすい点や注意しておきたい点をお伝えします。

就労可能な在留資格を申請する際には、雇用契約書の写しを提出しなければなりません。できるだけスムーズに審査を通過するためにも、ぜひチェックしておいてください。

雇用契約書には双方の署名が必要

雇用契約書は、企業と人材の双方が契約内容を承知したことを示す「署名(押印)」が必須です。

賃金は日本人社員と同等に設定

同じ業務に携わる限り、外国人の賃金は日本人と同等、もしくはそれ以上で設定しなくてはなりません。ビザ申請の際には、それを証明する書類の提出が求められます。

学歴・経験と職種との関連性が必須

在留資格の承認を得るには、外国人人材の学歴や経験が日本で従事する職種と関連性がなくてはなりません。「関連性」がわかるように、できるだけ具体的に記載することをおすすめします。

該当外国人目線で具体的な説明に努める

日本には日本人が暗黙的に理解できる当たり前のことでも、外国人人材にとっては理解し難い考え方や慣習が存在します。業務内容をはじめ制度やルールについて、該当する事柄は思っているより多いかもしれません。理解が浅かったことが理由となるトラブルを回避するためにも外国人目線で具体的で詳しい説明を心掛けましょう。

入社後研修の内容と期間

入社後に研修期間を設ける企業は多いでしょう。研修内容や期間を明記する必要があります。外国人の場合、言葉の壁などで、より長い期間を要することも考えられるでしょう。しかし、現場で実務にあたる研修は認められない在留資格がほとんどです。半年以上にわたるような研修は適切ではありません。

停止条件の提示で信頼を保つ

雇用契約書の中に「政府から在留が認められない場合、本契約は無効とする(=雇用しない)」という旨を記載しておくとよいでしょう。不法就労や不法滞在を後押ししない意志の表明になります。

最新の法律に適合させる

日本国内では随時法律の改正が行われており、外国人雇用に関わる内容もあります。たとえば、労働基準法、労働契約法、労働安全衛生法などです。最低賃金なども変動します。雇用契約書に記載する内容は常に細心の法律を反映させなければなりません。

法改正が日々行われているため最新情報は要確認

外国人雇用の際には、英文の雇用契約書を用意しましょう。英語圏以外からの外国人人材に対しては母国語での作成をおすすめします。記載する各項目は、日本企業や雇用に関する法律に則ったものでなければなりません。法改正の内容を随時キャッチアップして契約書に反映させましょう。