少子化によって労働人口が減り、働き手不足から外国人を受け入れる。この流れはしかたがないこと、当然のことだと今やだれもが理解しています。そして新たな当たり前の世界がどんなふうになっていくのか観察中といったところでしょうか。
ここでは、今浮かび上がってきた外国人労働者に関する問題を取り上げ、共有し、その解決法を探っていきます。

外国人労働者に起こっている問題とは

いわゆるミスマッチング。こんなはずではなかったというところからさまざまな問題が発生します。これは日本人側だけではなく、外国人労働者側にもあります。その内容がニュースで取り上げられることが増えるにつれ、外国人労働者のあまりに厳しい状況に対し、日本人側からも気の毒だという声が上がるようになりました。

具体的にはどういった問題があるのでしょうか。一つひとつみていきましょう。

低賃金・未払い

岐阜県の縫製工場で働く中国人技能実習生が、時給300~500円で働かされていました。日本では最低賃金が法律で定められているにも関わらず、です。技能実習生やビザのない不法就労者であっても最低賃金は守られるべきだということを雇用側は知らなかったのでしょうか。

また、ひと月に216時間もあった残業に対しての賃金が十分に支払われていなかったという問題もありました。最終的には、この案件を担当した弁護士の努力の甲斐があり、未払い賃金は支払われました。

その他にも、賃金の支払いを先延ばしにされ、そのことを何度も訴えたにも関わらず未払いが続き、ついには裁判を起こしたというニュースもありました。これは労働者側のバングラデシュ人がある程度日本語ができたために自力で解決できたとのことです。

厚生労働省のデータを元に筆者作成
在留資格区分1時間当たり賃金(円)年齢(歳)勤続年数(年)1日当たり所定内実労働時間数(時間)
外国人労働者計1,06629.11.76.3
専門的・技術的分野(特定技能を除く)1,88231.92.55.5
特定技能
身分に基づくもの1,12144.33.56.0
技能実習97725.51.37.3
留学(資格外活動)1,02424.31.26.3
その他(特定活動及び留学以外の資格外活動)1,03329.51.06.4

ニュースにはなっていないこのような低賃金・未払い問題は他にも起きていることでしょう。

長時間労働

過労死レベルをはるかに超える残業を外国人にさせていた例がありました。上記の月216時間も異常ですが、普通では考えられない時間の残業をさせていたり、休みが極端に少なかったりといったあまりにも過酷な働き方についていっとき話題になり、ニュースでも何度か取り上げられました。

あまりに過酷な働き方が続けば心身共に不調をきたします。上記の技能実習生は女性で、生理が止まってしまい、将来ちゃんと子どもが生めるのかと不安だったとのことでした。

それとは別に、茨城県のメッキ工場で働いていた男性の中国人実習生が急性心不全で死亡したというニュースもありました。調査の結果、会社側の「残業隠し」が見つかり、過労死と認定されました。この認定が出るまでには遺体を解剖し死因を検証し、タイムカードを調べるなどの調査が必要でした。

時間と手間をかけてようやく勝ち取る「普通」の扱い。外国人労働者を、安く使える労働力、使い捨てしてもよい労働力、と考えている実情が見えてきます。

契約書の不備

外国人労働者に関するニュースを見るたびに思うことは、いったい契約書はどうなっているのかということです。契約書を取り交わし、お互いの合意のもとに始まった雇用関係ではないのかと疑問を持ちます。

しかし実のところ日本の法律では、従業員を雇用するとき「雇用契約書」を取り交わすことは義務ではありません。そのため口頭で賃金や労働条件が伝えられるのみといったことがよくありますが、それは法律を犯しているとはいえないのです。

また契約書を取り交わした場合でも、それは日本語でされることが常ですから、外国人労働者側は十分理解していないことも多々あるでしょう。契約書の説明時だけでも通訳を間に立てるなどの誠実な対応が求められてしかるべきではないでしょうか。

こういった契約書の不備や雇用条件に関するお互いの認識のずれは、外国人労働者に不信感を抱かせます。そして次の問題を引き起こしていきます。

いじめ・パワハラ・差別

残念ながら、いじめられた、パワハラに遭った、差別された、などの不満は後を絶ちません。しかしこれは外国人に限ったことではなく、日本人どうしでも起こっている問題です。

どこからがいじめで、どういったことがパワハラになるのかの線引きは日本人どうしでも非常に難しいことです。それが異文化で育った外国人との間では、線引きが完全に食い違うということは何度もあり得、その結果、いじめ・パワハラ・差別問題はさらに多く発生すると予想できます。

もともと違う文化で育っている外国人ですから、考え方ややり方は違って当然です。しかしたとえ冗談でも、その違いを責め立てるように言うのは不注意でしょう。

外国人として住む以上、この国では少数派で弱い立場にあるということを十分理解し、日本社会に溶け込もうとしている外国人をあたたかく見守るように接することができるとよいのですが。

コミュニケーションが取れない

コミュニケーションが取れない。この問題はすべての問題を引き起こす原因であり、また同時に問題を解決に導く鍵であるとも考えます。

厚生労働省のデータを元に筆者作成

コミュニケーションがとれれば、仕事もスムーズに進み、役立つ人材となり、雇用側も満足し、人として尊重し丁寧に接するようになります。外国人側も折々のわからないことを質問しながら仕事を進められ、よい関係が築かれていきます。

逆に仕事の指示が伝わらずわからないまま進め、ミスを繰り返し何度もやり直しをすることになれば、かえって仕事の手間を増やすことになります。雇用主の立場に立ってみれば、人手不足の解消になると期待していたのにと文句のひとつも言いたくなるでしょう。

その結果の言動は、パワハラやいじめと受け取られることにつながります。指示が伝わらないこと、気持ちが通じ合わないことは、物事を悪いほうへ悪いほうへと向かわせます。すべてはコミュニケーションの不足からではないでしょうか。

日本語で十分なコミュニケ―ションをとれるようになるまでの道のりは遠く、そのきつさから自国のコミュニティーに埋没し、ますます日本社会との距離ができてしまうことも多々あります。

言葉が通じ、気持ちや状況を理解してもらえる自国コミュニティーも必要でしょう。しかし今住んでいる日本社会を理解し歩み寄ろうとしないことは、本人にとって不利益しかありません。日本に住みながらも交わろうとしない外国人はおのずと排除の方向に行きがちなのです。

こういった事実は日本に限ったことではなく、どこの国でも外国人として生活する場合に同じことがいえるのではないでしょうか。日本語を理解するよう努める。日本文化に多少なりとも沿っていく。これをせずして日本に快適に滞在することは難しいでしょう。

と同時に、雇用側からの努力や歩み寄りも必要です。日本に来たのだから日本のやり方にすべて従えといった威圧的な態度は改められるべきです。彼らは日本人になるために来たのではありません。

日本のルールに従ってもらうという考えはもちろん間違いではありませんが、何もかも日本人と同じようにすることを望むのはあまりに横暴で人権を無視した考えです。

外国人の言動の裏にある思いを理解しようとする努力、どうしても従ってもらわなければならないときこそ丁寧に伝えることなど、日本人を相手にするとき以上に配慮する気持ちを忘れないようにしたいものです。

不法滞在・不法就労

日本に来ると決めたとき、初めから不法滞在をしようと考えてやってくることはまれです。多くの外国人は、普通に仕事をし、生活に十分な給料を得て、日本から学べることは学びたいと夢や希望を持ってやってきます。

しかし、結果として不法滞在・不法就労となってしまうのはなぜでしょう。

外国人労働者側の思い

ここまでにご紹介したように、低賃金・未払い、長時間労働、契約書の不備から来る不信感、いじめ・パワハラ・差別などの原因があって、どうにも我慢できずに逃げ出した。その結果、不法滞在、不法就労となったというようには考えられないでしょうか。

不法滞在者の摘発などのニュースを見るたびに、そうなった原因は何だろうと考える姿勢はあってもよいと思います。

初めに説明された話と違った、人として尊重されていない、あまりに仕事がきつすぎる、そういった問題が解決されないままずっと続くのであれば、逃げ出すしか道はないといった考えも当然起こるのではと想像するようなフェアな態度は、今後の日本社会に必要だと考えます。

雇い主側の思い

しかしこの不法滞在・不法就労の問題は、必ずしも雇う側の日本人に非があることばかりではありません。

快適な住居を用意し、給料も正しく払い、余暇を楽しく過ごせるように心を砕いた。それでもある日黙って逃げ出してしまうことはあります。前述の最低賃金は、地域によっての格差があります。ネットの発達により容易に情報を仕入れることができ、よりよい条件を求めて動いていくのを止められないのです。

不法滞在、不法就労に対する考えの違いもあります。とにかく稼いで送金し、帰国後に豪邸を建てたといった例をいくつも耳にしていれば、それほど悪いこととは思えないという言い分も無視しがたいものとなります。こうなるともう雇い主側の努力だけではどうしようもない問題でしょう。

しかし、不法滞在・不法就労については断固とした態度で臨まなければなりません。この後に述べるように、さらに大きな問題へとつながっていく可能性が高まるからです。

犯罪

不法滞在・不法就労する者が、犯罪に手を染める可能性は、合法的に滞在・就労している者と比べ高いと考えられます。

というのは、外国人はだれもが、在留資格であるビザを保持することは非常に大切だということは重々理解しているからです。犯罪をおかすことはそのビザを失うことにつながる。このことは日本に来たばかりの若者であっても理解していることです。

犯罪の原因に目を向ける

畑から果物を盗んだ。ブローカーになり多額のお金を自国民から巻き上げた。こういったことは、すでに法律を破っていることからくる慣れ、開き直りと考えられます。また生活に困ってしかたなくということもあるでしょう。

もちろん丹精こめて育てた、農家の人にとって生活の糧である農作物を盗んでいいということにはならないのですが。

まじめな外国人への配慮

一方、まじめに正しく生活している外国人にとっては、同じ国の人が犯罪をおかすことで肩身の狭い思いをしてつらいという声もよく耳にします。まるで自分がしたことのように感じ、そのニュースをまともに見られなかったという話を聞いたことがあります。

外国人という話題性からニュースに取り上げられやすくはなりますが、実際には外国人の犯罪率が特に高いわけではないのです。悪目立ちしやすい立場ともいえます。よりよい関係を築くために、こういった外国人の気持ちへの配慮ができるとさらによいと思います。

外国人労働者問題の解決策はあるのか

上記に挙げたひとつひとつの問題に対し、真摯にその原因を追究し、解決策を講じる必要があります。その際には、一方的な押し付けになっていないかということを常に頭に留めながらしていかなければなりません。

育った背景の違いから生じる考え方の違いを受けとめ、不満を抱かず仕事ができるよう法的な整備が必要であればすぐにでもするべきです。またその法について雇用側に理解させることにも努めなくてはいけません。分厚い資料を渡されただけではわからないのは日本語がわかる日本人でも同じです。

上記にも書きましたが、コミュニケーション問題が解決されれば、かなり改善するのではと考えています。そしてこれは双方に言える問題だとも思います。

「ここは日本なので日本語を使ってください」これはいいと思います。しかしその日本語は外国人が理解しやすいものである必要があります。簡単な日本語、外国人がわかりやすい日本語、この日本語を確立され、多くの日本人に周知されることは、多様性のある社会を作るためにも決して不必要なことではないと考えます。

と同時に、外国人労働者側にも日本語を身につけることの重要性をもっと理解し、実感できるプログラムがあればとも考えます。そういった日本語能力向上のために仕事とは別の時間をもうけるか、仕事内でゆっくりと身につけさせるか、それは職場の状況によるとは思います。

この日本で共に生きていく者同士「お互いさま」の気持ちで

高度な専門職に就く外国人には長期で滞在してもらい、永住も構わない。単純労働につく者には数年で帰ってもらいたいというあからさまな声も聞かれることがある外国人労働者問題です。

差別的な言葉を耳にするたび、この問題はいつか解決できるのだろうかとため息をつきたくなりますが、外国人労働者にももちろん人権があり、それは尊重されるべきだと心に留め、お互いに信頼を重ねていけるよう努力し合っていけば、きっと未来は明るいものになるでしょう。

多様性、ダイバーシティと叫ぶまでもなく、すでに入国している外国人の労働力を頼みにし、社会がまわっている状況です。この先どう動いていくのかわかりませんが、外国人労働者問題については、特に「お互いさま」といった心もちを意識し進んでいかなければならないでしょう。