少子化が深刻化する日本にとって外国人人材の活用も解決策のひとつであり、国内の外国人雇用は拡大しています。採用難や人手不足の状況の中、ご検討中の経営者・人事担当の方も多いのではないでしょうか。
本稿では、国内の外国人雇用の現状と雇用するメリットを解説します。デメリットへの対策もご紹介していますので、ぜひ参考にしてください。

外国人雇用の現状

厚生労働省が公表した「「外国人雇用状況」の届出状況まとめ」によると、令和元年10月末時点の外国人労働者数は約166万人となりました。届出が義務化された平成19年以降、過去最高値を記録しています。

この厚生労働省の統計をもとに、さらに細かく国籍別、産業別、企業規模別の割合などを見ていきましょう。

国籍別の割合

国内の外国人労働者を国籍別に見ると、もっとも多いのは中国(25.2%)です。次いで、ベトナム(24.2%)、フィリピン(10.8%)の順となっています。

前年と比較した場合の伸び率を見ると、もっとも高いのはベトナム(26.7%増)、次いでインドネシア(23.4%増)でした。日本が留学生受け入れや外国人技能実習制度の推進を拡大したことが大きな要因と考えられます。「留学」の在留資格を持つ大学生などは、資格外活動として就労したあと、そのまま日本企業に就職を決めるケースも増えているようです。

中国は、自国が著しい経済成長を遂げているため、日本で就労するメリットが薄くなっているからか伸び率は低迷しています。

産業別の外国人雇用の割合

外国人を雇用する事業所を産業別に見ると、製造業がもっとも多く全体の約20.4%を占めています。次いで、卸売業・小売業(17.4%)、宿泊業・飲食サービス業(14.2%)と続きます。

しかし、前年比での伸び率を見ると、製造業や宿泊業・飲食サービス業は減少しており、逆に増加したのが建設業や医療・福祉などの分野です。2019年4月より就労可能なビザ資格「特定技能」として、建設業や介護業務などが加えられたことが大きな増加につながっていると考えられます。

事業所の規模で見る外国人雇用の割合

外国人雇用を進める事業所数を事業所規模別に見ると、30人未満規模の事業所が全体の59.8%と断トツです。すべての事業所規模において事業所数は増加しているのですが、30人未満規模の事業所は前年比で14.0%も増加しておりもっとも大きな上昇幅となりました。

また、外国人労働者の数も就業する事業所規模別に見ると、やはり30人未満規模の事業所(35.4%)と割合がもっとも高く前年比で15.9%も伸びています。中小規模企業の人材確保の難しさの表れとも考えられるのではないでしょうか。

外国人雇用のメリット

外国人を雇用することには多くのメリットがあります。どのようなメリットが期待できるかを見ていきましょう。

人手不足の解消・若手人材の獲得

日本では人手不足に陥る企業が増え、人材確保は喫緊の課題となっています。とくに、少子化の影響は深刻さを増しており、若手人材がどうしても大企業や有名企業に流れやすい状況です。中小企業の人材獲得の難易度は年々高くなっています。

政府の働きかけもあり、女性や高齢者の活用・登用も浸透している一方で、フルタイムで自社事業の中核を担える人材の枯渇は解消されていません。そのような環境の中で救いとなるのが外国人人材の存在なのです。採用の対象範囲を広げることで、企業が優秀な人材に出会える確率は高まるでしょう。

先述の厚生労働省の統計にも出ていたように、多くの中小企業が生き残りをかけて外国人雇用を進めることで、現状の難局を乗り越えようとしています。

多言語対応が可能に

外国人はそれぞれに日本語以外の母国語をもちます。経済力の低い国の中には日本より多国語教育や活用環境が発達した国も多く、中には日本語以外の複数の言語を駆使できるマルチリンガルも少なくありません。

外国人人材を雇用することは、企業の言語スキルを増やすことにもなります。つまり、事業や顧客への対応能力も上がるということです。日本語で発信される情報だけでなく、世界の情報もより多く迅速に取り込んでいけるでしょう。対応可能な言語が増える分、客層も広がり個々の顧客に合わせた対応ができるはずです。

また、社内でも日本語以外の言語が飛び交うようになれば、日本人人材にとって日常的に他国語に触れ、実践できる有意義な機会となります。長い目で見れば、日本人人材の国際感覚の醸成やスキルアップにもつながっていくでしょう。

海外進出の足掛かり

少子高齢化が著しい日本では国内市場の縮小も懸念されていることから、海外進出を視野に入れる企業が増えました。海外市場は言語の違いはもちろんのこと、価値観やニーズも日本とは大きく異なります。したがって、日本と同じマーケティングの進め方ではうまくいかないことが多いようです。

その際にも、現地に馴染みのある外国人人材が社内にいれば頼りにできるのです。彼らの価値観や発想が活かされるだけでなく、適切な市場リサーチや充実したネットワークの構築においても高い貢献度が見込めるでしょう。

現地での提携先とのやりとりや顧客対応、そして現地人材の育成などでも活躍してもらえるはずです。また、日本人社員に現地についての知見や文化を共有するなど、いわば教育係の役割も果たしてくれるでしょう。

職場のモチベーションアップ

日本で暮らしながら働くとなれば、仕事に関するスキル習得だけでなく文化や習慣についての学びも必要です。そのため、日本で就職したいと考える外国人人材は勤勉で意欲的な人が多いといわれます。

彼らの働き方や熱心に学ぶ姿勢に刺激される日本人社員は少なくないでしょう。組織的にモチベーションが底上げされ、業務効率をはじめ、創出力やアウトプットの質が高まる期待ももてます。

価値観や意見、仕事の進め方の違いに対し、お互いに尊重できる風土を確立することができれば、これまでになかった良好な協働や新しいアイデアも生まれやすくなるでしょう。

日本人社員もグローバルコミュニケーションや多国籍メンバーで進める業務感覚をつかめるようになるのではないでしょうか。

外国人雇用のデメリットと対策法

では次に、外国人雇用のデメリットを解説していきます。法律に関わる要素も多いため、しっかり対処していくことが大切です。各デメリットについての対策も挙げていますので、ぜひ参考にしてください。

ビザの取得に時間がかかる

外国の人材が日本で働くためには、就労を認めるビザが必要です。ビザ申請をすれば即発行とはいかず、取得までに時間がかかる点はデメリットと言えるでしょう。

1ヶ月前後が平均的な審査期間と言われますが、時期や案件によっては最大で3ヶ月待たなければならないケースもあります。内定・入社が確定しても、ビザが取得できていなければ働くことはできません。

対策としては、就労ビザを申請する際に、在留資格認定証明書を添付することで審査がスムーズに進みやすいため時間短縮になるようです。

また、年度末/新年度を含む2~5月は、できれば避けたほうがいいかもしれません。更新申請や変更が増えることで入国管理局がとくに忙しくなる時期であり、混雑が予測されるからです。希望の入社時期から余裕を持った逆算で申請を済ませられるよう計画的に進めましょう。

雇用するまでの手続きが多く支援計画にも時間がとられる

外国人雇用は日本人を雇用するときに比べて、煩雑な手続きや複雑なプロセスが伴います。難しいものではないのですが、慣れない手続きが多いためそのような捉え方になるでしょう。不安がある場合は、登録機関をはじめ、就労ビザ申請の代行サービスを提供する会社や専門家の力を借りるのが賢明かもしれません。

入社までの手続き等々だけでなく、入社後のケアやフォローも重要となります。外国人社員にとって働きやすい環境を整えることが、結果的に共に働く日本人社員の働きやすさにもつながるでしょう。

外国人人材は、外国で働くことに対して大なり小なり不安や悩みを抱えています。企業側も仕事面や生活面などあらゆる角度から理解に努め、支援の手を差し伸べていくことが大切です。そのプロセスの中で良好な労使関係を築くことが、できるだけ長く働き続けてもらうためのポイントでもあります。

慣れないうちは、人材も企業も戸惑うことが多く、トラブルも発生しやすいでしょう。外国人雇用に関わる労務管理については専門家に委託することも検討されてみてはいかがでしょうか。

言語や文化の違いで生じる不安

雇用する外国人の日本語レベルによってコミュニケーションの取りやすさも違ってきます。日本人には気づきにくい不安を抱くことも多いですし、文化の違いによる誤解や不満などが生じやすいことも認識しておくべきでしょう。

業務時間以外でも日本語レベルを向上させられるような支援を提供すれば、不安の解消だけでなくトラブルの発生を防ぐ上でも意義のある施策になると考えます。

日本にいるとわかりにくいのですが、日本や日本人がもつ習慣は世界的に見るとかなり独特なものです。日本人が無意識に交わしているあうんの呼吸も、彼らに伝わりにくいと言われます。遠回しや曖昧なコミュニケーションの在り方に不満を抱いたり、戸惑ったりする外国人は少なくありません。

日本人と外国人社員がもつそれぞれの習慣や文化の違いを理解できるような研修や交流できる機会の提供が求められます。

日本語のマニュアルだけでは理解されにくい

外国人が日本企業での仕事を覚え一人前にこなせるようになるまでには、周りからの教育とともに本人の自発的な学びも必要です。

マニュアルなどがあると自分で解決できることも増え習得がスムーズになりますが、日本語のままではかえって負担が大きくなります。マニュアルについては雇用する人材の母国語版も用意しておきましょう。

また、文章説明だけでなく、画像や動画を用いたマニュアルを作成しておけば、さらに理解度は高まり、のちの業務にも反映されやすくなるでしょう。

不法就労の防止に努め、働きやすい環境の提供を

外国人人材は、就労ビザを取得しなければ雇用できません。取得なしのまま働かせれば不法労働となり、外国人人材だけでなく雇用主も罰せられます。

外国人を雇用する際には、個々に在留資格の状況を確認し、必要な手続き・申請を進めることが大事です。入社後に十分なフォローができる体制を整えて、働きやすい環境を提供していきましょう。