少子高齢化の問題が取りざたされてから、AIによる効率化、働き方改革などさまざま解決策を講じてきましたが、今なお深刻な人手不足は続いています。しかし実際には、業界によって偏りがあります。また、これまでとは違う施策も進められています。
ここでは業界ごとの人手不足のより詳しい現状と、今後注目される新しい制度についてご説明します。

人手不足の業界と特徴

長引く新型コロナウイルスの影響から、人手不足の業界にも変化が起きています。宿泊や飲食業などは深刻な人手不足に陥っていましたが、今はその状況は一変し、今いる人材の維持さえも大変だという声が聞かれます。

業界全体を見ても、毎年話題となる春闘での賃上げ要求が今年は見送られるなどの変化が見られました。賃上げよりも雇用維持が優先課題と、経営者側にもまた労働者側にも認識、理解されているということでしょう。

ここでは、実際にどういった変化が起こっているのかを業界別にみていきます。

判断の目安には「有効求人倍率」を使います。「有効求人倍率」とはひとりの求職者に対しいくつの求人数があるかを示す数字で、計算式は下記のとおりです。

有効求人倍率=有効求人数÷有効求職者数

「有効求人倍率」は1を超えて数字が高くなるほど仕事が見つけやすいということになります。有効求人倍率が3であれば、3人の求人数に対し、1人しか求職者がいない状況です。つまり仕事を簡単に見つけやすい、選べるということになります。

人手不足かどうかの判断については「有効求人倍率」が高ければ高いほど人手不足が深刻だということを意味します。

専門的・技術的職業

専門的・技術的職業とは、具体的には

  • 「開発や製造の技術者」
  • 「建築・土木・測量技術者」
  • 「情報処理・通信技術者」
  • 「医師・薬剤師」
  • 「社会福祉の専門的職業」
  • 「美術家・デザイナー」

などをいいます。

この分野の職業全体の有効求人倍率は1.24。1倍よりも少し高い程度なので、仕事の見つけやすさは厳しいとも簡単ともいいがたい、どちらかといえば見つけやすいといった数字です。

しかし実際にその内訳をみると、同じ専門的・技術的職業でも数字の大きさにはかなりの違いがみられます。

たとえば「美術家・デザイナー」は0.19と極端に低い数字です。ひとつの求人に対し、5人の求職者がいるということです。求人と求職の数字がアンバランスで、人手不足というより人手が余っている状況なのかもしれません。

一方、「建築・土木・測量技術者」は6.35と非常に高い数字になっています。1人の求職者が6つの会社から人材として求められているということです。この数字は広く他の業界を見渡してもかなり高い数字です。深刻な人手不足に陥っている状況が想像できます。

もうひとつ高い数字が出ているのは「社会福祉の専門的職業」で3.10となっています。1人の求職者が3つの事業者に求められています。専門的職業ということで社会福祉士などの資格をもった人が対象ですが、まだまだ人材は不足しているようです。

ひとつ意外なことは「製造技術者」の数字が0.66と1を下回っていることです。製造業の中でも技術者は、経験があり専門的な勉強をした資格をもった人材でしょう。1を下回っているということは技術者については人手不足ではないという意味です。

事務的職業

事務的職業の全体の有効求人倍率は0.33です。「一般事務」は0.26で、「会計事務」は0.52なので内容によって多少の違いはありますが、人手は十分なようです。仕事の性質上、昔よりも必要な人数自体が減っていることも関係していると考えられます。

さらに前年同月比の新規求人数をみるといずれもマイナスの数字。特に「外勤事務」「運輸・郵便事務」はそれぞれ-43.4、-40.6と大きく数字を減らしています。今後、有効求人率はさらに低くなっていく可能性があります。

販売の職業

販売の職業全体の有効求人倍率は1.49です。1を超えているので若干の人手不足感はあるものの、深刻ではないといった状況でしょうか。「商品販売」は1.26ですが、「営業」は1.69という数字です。

しかし前年同月比の新規求人数をみると「商品販売」は-37.7、「営業」は-5.1と求人数が減り、有効求職者は20.7、7.1と増えています。求人は減少傾向なのに求職数は増加傾向なので、求職は厳しくなっていく状況が推察できます。

サービスの職業

サービスの職業全体の有効求人倍率は2.06ですが、サービスの種類はさまざまですから内容によっての違いをみてみましょう。

数字の高さが顕著なものは「介護サービス」の3.17、「生活衛生サービス」の3.16です。介護サービスや生活衛生サービスが高いのは、景気に左右されない常に安定した求人数が必要だからでしょう。

意外に低い数字が出ているのは「居住施設・ビル等の管理」で0.66と1を下回った数字になっています。この仕事に就くのは会社を退職した高齢者が多いので、求人数が少ないというよりも求職者が多く、結果として低い有効求人倍率になるのではと思われます。

保安の職業

保安の職業の有効求人倍率は6.42。非常に高い数字なので、人手不足が深刻だと言えます。前述の「建設・土木・測量技術者」の有効求人倍率と似かよった数字です。警備という仕事は建設・土木工事にともなって必要になるものなので、ある意味、連動している職種といえるでしょう。

なお、この数字はパートではなく正規の職員に関するものです。働くなら正社員と考える人にとっては狙い目かもしれません。

農林漁業の職業

農林漁業の職業の有効求人倍率は1.16。一般的には人手不足が深刻とイメージされますが、数字の上ではその深刻さはみえません。とはいえ、人手が必要な業種ですから、なんらかの対策がすでに打たれているとも考えられます。

パートを増やす、外国からの技能実習生を確保するなどでしょうか。現場に足を運ぶと実際にそういった人たちを目にすることは多いです。

生産工程の職業

生産工程の職業の有効求人倍率は1.40。この数字からは若干の人手不足傾向は見えますが、深刻ではないようです。しかしこれは生産工程全体を平均しての数字で、詳しく見ていくと仕事内容によっての違いがみられます。

たとえば「機械組立」は0.57と低く、むしろ人手が余っているのではとも考えられるほどです。しかし「機械整備・修理」は4.19と高く、「金属材料製造」も2.33と高い数字です。ひとくちに製造といっても仕事内容によっては人手不足感には差があります。

輸送・機械運転の職業

輸送・機械運転の職業の有効求人倍率は1.89。高めです。ただしこの数字は運転するものによっての違いがあります。

たとえば「鉄道運転」は0.38と低い数字です。3人応募して1人受かるという割合で就職は厳しい状況です。参考までに前年同月比の数字をみてみると、新規求人数が-63.6と大きく落ち込んでいます。有効求人数も-49.2なので、求人数を大きく減らしての結果だとわかります。

一方「自動車運転」については2.20で、1人の求職者に対し2人の求人があり、仕事を見つけやすい職種になります。前年同月と比べ、有効求職者が19.3と増えているにもかかわらずの数字ですので十分な求人数があると考えられます。しかし新規求人数は前年同月比では-14.5と減っていますので今後の動きは楽観できない状況です。

建設・採掘の職業

建設・採掘の職業の有効求人倍率は5.58。どの仕事内容も4~6の中におさまるほど高い数字で、1人の求職者に対し4~6の求人があります。

特に「建設躯体工事」の有効求人倍率は9.21というかなり高めです。9人必要なところに1人しか求職者がいない、残りの8人分の仕事は今いる人材でやっていくしかなく、仕事は常に忙しく余裕がない状況だろうと想像できます。

こういった状況が長い期間続いているのであれば、人の定着という点で問題が起こるでしょう。厳しい条件、状況の中で仕事をしていくのはきついですし、やめてもすぐに他で見つかるからです。

これはまさにかなり深刻な人手不足の状態だといえます。前年同月比較ではどうでしょうか。

建設・採掘の職業では、どの仕事内容についても求人・求職数字が前年よりプラスでした。特に「建設躯体工事」については新規求人数が26.0、有効求人数も18.7とその数字の伸び具合も大きく、有効求職数も21.7と著しい増加傾向です。

さまざまな業界が落ち込む中、この業界、職業に限っては仕事が十分あり、そのための人手がまだまだ必要な状況が見てとれます。活気ある業界といえるでしょう。

運搬・清掃・包装等の職業

運搬・清掃・包装等の職業の有効求人倍率は0.54。1を切っているのでこの業界では人手が十分だということがわかります。求人の前年同月比をみるとマイナス傾向ですので、今後の求人は減っていく可能性があります。

この数字はあくまでも常用勤務でパート勤務の人は除いての数字ですので、短時間労働者を増やしていることは考えられます。

人手不足が続く業界の原因と対策

業界全体を眺め、人手不足がどれくらい深刻かをより詳しくみてきました。新型コロナウイルスの影響で人手がいらなくなった業種もありますが、ますます人手不足が深刻になっている業界もありました。

深刻な人手不足が続いている業種については、その原因はどこにあるのか、どういった対策をしているのか、今後どんな対策を打てばよいのか。ここでは原因と対策についてご説明します。

生産年齢人口の減少

人手不足の原因としてだれもが少子化問題を挙げることでしょう。少子化によって働く人が減れば人手不足になるのは当然予想できることです。

この働く人を表す数字は「生産年齢人口」とよばれ、この数字の変化から人手不足の状況が見えます。聞きなれない「生産年齢人口」という言葉ですが、これは「労働に従事できる年齢の人口」をいいます。日本では15歳から65歳未満の年齢に該当する人たちの人数です。

総務省からの発表では生産年齢人口は1995年をピークに減少し続けています。また今後の予測についても減少傾向は続くとされています。

具体的に数字を挙げると、1995年時点では8,726万人でしたが、2015年には7,728万人です。その差、1,000万人。そして今後の予測としては、2040年に6,000万人、2056年には5,000万人との数字が試算され、減っていく一方だとの予測です。

引用元 日本の人口の推移|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/000523234.pdf

こういった状況に対しての施策のひとつが働き方改革です。主婦や高齢者が働きやすい環境が整備された結果、一定の効果は得られています。しかし実際問題として、長い期間働ける人材としての生産年齢人口そのものが増えない限り安定した状況とはいえません。

もうひとつの施策がAIの活用による効率化です。コンビニの無人化などもその一例ですが、経費の問題や仕事の種類によってはAI活用が難しいなどの問題があり、解決策として大いに効果を発揮できるのはほんの一部の企業です。

小規模事業者にとっては、今のやり方を変えないでとにかく足りない人材を補いたいというのが本音でしょう。

労働条件や給与

人手不足傾向が顕著にみられる業種の仕事内容をみると、仕事がきつい、危険などよくいわれる3Kの仕事であることがほとんどです。こういった業種では、仕事を始める前に躊躇され人が集まらない。雇ったものの続かない。結果、人が育たずいつまでも仕事はきついままといった状況が繰り返されています。

その対策として、仕事内容を見直し楽で安全な仕事に変えていくための対策を実施している事業者もあります。たとえば介護現場で介助者の腰への負担を軽減する機械を使う、レストランでタブレット端末を使い客が各々に注文するシステムを取り入れるなどです。これらによりひとりひとりの仕事のきつさを減らすことができます。

しかしこういった改善がすべての事業者でされるのは難しいことです。事業規模の違いによっては費用対効果を考え、導入しないとするところも多くあります。

目に見えにくい労働環境の見直しも非常に重要です。「仕事がきついのは承知していたがそれ以外の理由で退職した」との声が多いからです。

たとえば、労働時間の調整やシフトの公平感など改善すべき問題は各職場であるだろうと思われます。また職場の人間関係をよくするためにも、すべてをオープンに見える化するなど、お互いの不満が少ない職場にしなければなりません。

また労働条件においても思い切った改革が必要でしょう。給与を引き上げることはわかりやすい、効果が表れやすい改革です。きつくて危険な上に給料が低いということであれば、とうてい人材の定着は望めないからです。

深刻化する人手不足に対応した『特定技能』

日本の生産年齢人口の減少という事実がある中、深刻化する人手不足を解消し、経済を安定させるための施策として考えられたのが、外国人を雇い入れることです。

これについては「技能実習」という制度がすでにありますが、仲介業者による高額な保証金問題、ルール通りに支払われない給与、突然の契約解除など、外国人にとってあまりに不利益な問題がこれまでに多く噴出しました。

そういった問題をふまえて新しくできた施策「特定技能」という制度が今、注目されています。それまでにあった「技能実習生」との違いは、制度の意義として人手不足を解消するためとはっきりとうたわれていることです。

「特定技能」という制度を使い外国人を雇うことができる職種は、深刻な人手不足状況にある14業種に限られています。また技能水準や日本語能力についての基準も設けられています。

特定技能は14業種

「特定技能」という制度を使い外国人を雇うことができる職種は、深刻な人手不足状況にある14業種に限られています。また技能水準や日本語能力についての基準も設けられています。

5年のうちでの受入れ見込み人数(最大値)も公にされているので、あわせてご紹介します。

厚生労働省管轄の「介護」は60,000人、「ビルクリーニング」は37,000人です。経済産業省管轄の「素形材産業」は21,500人、「産業機械製造業」は5,250人、「電気・電子情報関連産業」は4,700人です。

国土交通省管轄の「建設」は40,000人、「造船・船用工業」は13,000人、「自動車整備」は7,000人、「航空」は2,200人、「宿泊」は22,000人です。この発表の後に新型コロナが流行し観光やビジネス全体が落ち込んでいますので、数字に修正があるかどうか確認が必要です。

農林水産省管轄の「農業」は36,500人、「漁業」は9,000人、「飲食料品製造業」は34,000人、「外食業」は53,000人です。これについても新型コロナの影響で数字が変わっている可能性があります。特に「外食業」は外国からの観光客が来ない上、今いる人材の雇用維持も大変な状況です。

これらの数字はいずれも最大人数をあらわしています。この数字を上限にそのときどきの状況で変更もあり得ると考えたほうがいいでしょう。

二国間取決め13か国

新しく始まった「特定技能」制度は、保証金を徴収するなどの悪質な仲介業者(ブローカー)等の介在防止のための措置として、日本と該当国との二国間取り決めがなされています。

この取り決めの中では、保証金の徴収、違約金の定め、人権侵害行為、偽造文書等に関する情報を二国間で共有することとされています。まだ随時、二国間で協議を行い、さまざまな問題の是正に努めることも定められています。

この取り決めに署名した国は令和3年1月18日現在で13か国。

  • フィリピン
  • カンボジア
  • ネパール
  • ミャンマー
  • モンゴル
  • スリランカ
  • インドネシア
  • ベトナム
  • バングラデシュ
  • ウズベキスタン
  • パキスタン
  • タイ
  • インド

となっています。これらの国と日本の間で、政府間文書の作成等、必要な方策が進められていきます。

深刻な人手不足を解消する「特定技能」に注目!

業種によって偏りがあるとはいえ、深刻な人手不足を抱える現場にとって人材確保は早急に解決すべき問題です。人がいないことには仕事ができない、泣く泣く事業をたたむしかないといった中小、小規模事業者の声も聞こえてきます。

AIを使っての効率化や高齢者人材の確保といった対策にも限りがあります。AI導入が難しい、体力が必要な仕事で若者であることが望ましい、といった現場からの声も無視できません。

さまざまな対策を講じてきた上での、今の段階での解決策として、「特定技能」は今後ますます注目されていくことでしょう。