特定技能「宿泊」は、旅館やホテルなどの人手不足を解消するために設けられた新たな外国人の雇用制度です。これまでに比べて外国人を雇いやすく、即戦力となる人材を採用できます。
しかし制度が設けられて2年ほど経過した今、特定技能についていまひとつ把握できていない、という方も多いでしょう。そこで今回は特定技能「宿泊」の概要や試験内容、雇用の流れや注意点などについて詳しく解説していきます。
特定技能 宿泊業とは
そもそも特定技能とは、2019年4月より創設された新たな在留資格です。目的としては、様々な分野で外国人雇用を推し進めること。外国人雇用の幅を広げることで、国内企業の人材不足を解消する狙いがあります。
宿泊分野においても、特定技能を活用して外国人材を受け入れることを国土交通省が発表しました。それが特定技能『宿泊』となっており、外国人労働者が宿泊施設で仕事に就くための在留資格です。同資格を持っていれば、ホテルや旅館業を展開する施設などで働くことができます。
ただし特定技能を取得するには、それぞれの分野に応じて一定の知識や技能を持っていなければなりません。例えば宿泊分野だと、ホテルや旅館におけるフロント業務や接客。その他にも、安全衛生に関する知識などが求められます。
これらの水準を図るために、技能試験や日本語試験が開催されているのです。試験に合格した外国人は、ある程度の技能や日本語能力を満たしていることが保証されるので、宿泊事業者の即戦力となる人材確保につながるでしょう。
宿泊業界の雇用事情
職業分類(小分類) | 有効求人数 | 有効求職者数 | 有効求人倍率 (求人/求職) |
---|---|---|---|
旅館・ホテル支配人 | 6,311 | 2,794 | 2.26 |
飲食物給仕係 | 924,027 | 128,972 | 7.16 |
旅館・ホテル・乗物接客員 | 223,721 | 55,859 | 4.01 |
合 計 | 1,154,059 | 187,625 | 6.15 |
(参考)職業計 | 28,997,798 | 20,982,347 | 1.38 |
以前の宿泊業界は、他の職業に比べて有効求人倍率が高い傾向にありました。観光庁の資料では、旅館やホテルの支配人、ホールスタッフや接客スタッフの合計で6.15倍ほど。これは1人の労働者に対して6件の求人がある状態でかなりの人手不足です。
多くの宿泊施設が人手不足に悩まされているという背景もあり、宿泊分野が特定技能に組み込まれていることが分かります。
ただ近年では、新型コロナウイルスの感染拡大による影響で宿泊客が大幅に減少。休業する事業者も増加しており、有効求人倍率自体は下がっています。
現在では人材確保の余裕がない事業者も多いですが、いずれはコロナ禍の収束と共に需要の回復が見込まれます。そうした際に人材不足とならないためにも、特定技能外国人の雇用という選択肢は持っておくべきです。
特定技能「宿泊」分野の業務内容
特定技能「宿泊」では、ホテルや旅館などの宿泊施設における様々な業務に就くことが可能です。具体的には、フロント業務・企画・広報・接客・レストランサービス等の仕事に携われます。
ただ特定技能を取得した外国人だからといって、宿泊施設で何の業務に就かせてもOKという訳ではありません。あくまで上記の業務がメインとなっており、それ以外の関連業務に関しては、国土交通省の資料で以下のように記載されています。
当該業務に従事する日本人が通常従事することとなる関連業務(例:館内販売,館内備品の点検・交換等)に付随的に従事することは差し支えない
国土交通省「特定の分野に係る特定技能外国人受入れに関する運用要領」
要するに、同じ仕事に就く日本人従業員が実施するものであれば、該当した業務以外でも付随的に行えます。例えば、施設内での販売や備蓄備品の点検・交換、館内清掃やベッドメイキングなどです。
ただ特定技能外国人には、基本的に宿泊施設における幅広い業務を任せる必要があります。付随的という言い回しになっているように、特定の業務だけを担当させることはできないのです。もし清掃業務をメインで任せる場合は、ビルクリーニング分野の在留資格を持つ外国人を雇用しなければなりません。
このようにいくつかの業務に関しては、従事できないものや制限のかかっているものもあります。ではレストランサービス等とあるように、宿泊施設内での調理業務についてはどこまでが業務可能な範囲となっているのでしょうか。
宿泊分野で調理は任せられる?
調理業務に関しても、前述した通り同様の業務に就く日本人が行う範囲で環境が整っているのならば、付随して作業することは可能です。ただし調理担当として、その業務のみに就かせることはできません。
特に調理作業は、仕事内容によって専門性が求められる部分も出てくるため、特定技能外国人ができることは限られてくるはずです。例えば料理の下ごしらえや盛り付け、皿洗いなどの基本的に誰にでも取り組める業務を任せることになるでしょう。
外国人受け入れ側に求められる条件
特定技能「宿泊」の在留資格を持つ外国人を受け入れる場合、宿泊施設側にはいくつかの条件が定められています。まず第一に「旅館・ホテル営業」の許可を受けた施設であること。
法律上の「旅館・ホテル営業」とは、料金を受けることでお客様の宿泊を行う施設であり、簡易宿所営業や下宿営業以外のことを指しています。つまり後者に該当する山小屋やスキー小屋、カプセルホテルや1ヶ月以上の単位で宿泊営業を行う下宿施設などでは、原則として特定技能外国人を雇用できません。
加えて風俗営業法に該当するラブホテルといった施設での労働も認められていないため、一般的なホテルや旅館のみで働くことが可能となります。
また国土交通省が設置している「宿泊分野特定技能協議会」の構成員であることも条件です。これは他の分野にも共通しており、これまで外国人材を雇用しておらず構成員になっていなかった場合は、外国人の入国後4ヶ月以内に協議会へ加入しなければなりません。
さらに協議会や国土交通省が実施する調査や指導には、必要に応じて協力することも必要です。もし協力する姿勢が見受けられない場合、特定技能外国人の受け入れが認められないこともあるので注意してください。
雇用できる外国人の条件
宿泊施設で外国人を雇用する場合、大前提として特定技能「宿泊」などの在留資格を取得している必要があります。そして宿泊分野では、主に以下の条件を満たさなければなりません。
- 日本への入国時において18歳以上であること
- 宿泊業技能測定試験に合格
- 日本語基礎テストもしくは日本語能力試験に合格
- 保証金または違約金の徴収などをされていないこと
- 送り出し国で海外雇用についての規定がある場合、正当な手続きを経ていること
どの分野でも共通していることですが、特定技能外国人が雇用を目的として入国する場合、日本に上陸する時点で18歳以上であることが求められます。これは日本の法律において、18歳未満の労働者に特別な保護規定が定められているからです。
加えて外国人やその親族などに保証金・違約金の徴収があると、日本での活動に支障が出る可能性が否めません。特定技能外国人には、これらの徴収や契約がないことも求められます。
また国によっては、海外で労働する際に何らかの規定や手続きが定められることもあるものです。正当な手続きを経ているか確認することで、必要な手続きを遵守しない悪質な仲介業者を排除することが目的となります。
そして特定技能「宿泊」の在留資格で仕事に従事する場合、専門的な知識やある程度の日本語能力が求められます。宿泊業技能測定試験や日本語能力試験は、それらの技能が必要な水準に達しているかを図るものです。
だからこそ試験に合格しなければ、特定技能の資格を取得することはできません。では特定技能「宿泊」における試験の内容について詳しく見てきましょう。
宿泊業技能測定試験の内容
特定技能では、即戦力となる外国人を受け入れるために、それぞれの分野に応じた技能測定試験が開催されます。宿泊分野においては、「一般社団法人 宿泊技能試験センター」が運営する宿泊業技能測定試験を受けなければなりません。
同法人は、「日本旅館協会」「全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会」「日本ホテル協会」「全日本シティホテル連盟」の4社が共同で設立したもの。特定技能「宿泊」における試験日程や開催場所といった様々な情報発信も担っています。
また特定技能では分野によって試験の内容や日程、開催場所なども全く異なるもの。宿泊業で外国人の雇用や資格取得をサポートする企業の方は、できる限り把握しておくべきです。では宿泊業技能測定試験の詳細について見ていきましょう。
試験日程
試験場 | 試験日 |
---|---|
東京 | 6月10日(木) 6月11日(金) |
福岡 | 6月15日(火) |
大阪 | 6月16日(水) |
名古屋 | 6月17日(木) |
那覇 | 6月22日(火) |
宿泊業技能測定試験の開催日については、現在のところ2021年6月10〜22日に国内で開催される予定です。申し込み期間は、2021年5月12日〜5月25日の間なので、忘れず申請する必要があります。
ただ緊急事態宣言の影響からか、6月12〜13日の週末は中止となっているため、事前にしっかりと確認してから申し込んでください。
登録受付期間 | 2021年5月12日(水)13:00 ~ 2021年5月25日(火)12:00 |
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受験料の納付 | 受験料の納付については申込後にメールでお知らせします |
受験票の発行 | 2021年6月2日(水)13:00を予定 |
合格発表 | 2021年6月29日(火)13:00を予定 |
特に日本国内では、2020年1月から新型コロナウイルスの影響でしばらく試験が延期されていました。その後2020年7月・9月・11月に開催されており、2021年にも2月・4月に試験が行われています。
最近では約2ヶ月ごとの間隔で試験を実施しているので、国内であれば受験しやすいです。しかし海外で開催される予定は今のところなく、すぐに特定技能「宿泊」の在留資格を取得したいなら、日本で試験を受ける必要があるでしょう。
今後の状況によっては、試験の延期や中止もないとは言えません。正しい開催日を把握するためにも、定期的に宿泊業技能試験センターのWebサイトで情報を確認しておくことをおすすめします。
試験の実施場所
宿泊業技能測定試験は、国内を中心に様々な場所で開催されています。例えば国内においては、過去に札幌・仙台・東京・名古屋・大阪・広島・福岡・那覇などの日本各地で実施。2021年6月の試験でも、東京をはじめとした5都市で開催される予定です。
また2019年10月には、宿泊分野における初の海外試験がミャンマーのヤンゴン市内で開催されました。なお海外で特定技能試験が行われたのは、介護分野に続いて2業種目となっており、早くから外国人雇用の窓口を広げていることが伺えます。
ただ近年問題となっているコロナ禍の影響により、世界中で外出自粛や渡航制限などの措置が取られているのが現状。日本国内では定期的に試験も行われていますが、海外現地だと今のところ開催予定はありません。
新型コロナの感染拡大が収束すれば開催される可能性も高いため、外国人雇用を検討する宿泊事業者の方は、常にアンテナを張っておき国土交通省や宿泊業技能試験センターからの情報発信を逃さないようにしましょう。
試験の科目と出題方法
宿泊業技能測定試験には、学科と実技の2つの科目があります。一般的に特定技能では、CBT(コンピューター・ベースド・テスティング)方式による試験が行われており、宿泊分野においても例外ではありません。
CBT方式は、試験会場に設置されたコンピュータから問題が出題され、マウスやキーボードなどを利用して回答を記入する仕組みです。学科試験では、このCBT方式もしくはペーパーテスト方式による試験が実施されます。
さらに問題数は30問で、「○ or ×」で答える真偽法での出題です。フロント業務や接客などの宿泊分野における専門的な内容から出題され、45分の制限時間が設けられています。
実技試験では、CBT方式もしくは口頭による判断等試験を実施。宿泊業における基本事項や実際の業務、安全衛生などを想定した問題が出され、従業員の立場になって正しい受け答えを行う試験となります。問題数は4問、制限時間は10分ほどと短めです。
それぞれの試験で合格基準を満たしていれば、宿泊分野における技能面は問題ないものと判断されるでしょう。
試験のテキストと勉強法
試験の内容については、宿泊業技能試験センターの問題サンプルをご参照ください。同Webサイトでは、合格発表から1年経過した実際の試験問題が公表されています。
試験問題は、主に「フロント業務」「企画・広報」「接客」「レストランサービス等」「安全衛生・その他知識」などのカテゴリーからそれぞれ出題されるようです。
いずれも日本語での出題になりますが、漢字にはふりがなが振られており、最低限の日本語能力があれば問題なく答えられます。どちらかというと試験の内容自体が難しい傾向にあるため、日本の旅館・ホテル業での業務についてある程度知っておかなければなりません。
宿泊業技能試験センターのWebサイトでは、学習用テキストについて以下のように回答しています。
インターネットで「ホテル 仕事内容」などを検索し、そこで表示される内容を見ていただくと参考になります
宿泊業技能試験センター「よくある質問」
宿泊業技能測定試験に向けた学習を行うには、自力で情報を集めて勉強することも大切です。上記の調べ方以外では、「ホテル業 一般常識」「ホテル業 知識」などが挙げられます。
また「ホテル フロント業務」「ホテル 接客業務」のように、それぞれのカテゴリーで検索すると学びたい部分だけを抽出しやすいです。効率的な学習を行うためには、知りたい部分のみに絞った的確なリサーチも重要になります。
試験の合格基準と合格率
宿泊業技能測定試験の合格基準は、基本的に学科と実技それぞれの試験で65%以上の正答率が必要となります(2021年6月の試験概要を参照)。特に実技試験は問題数が少ないこともあり、1問のミスが大きく影響するので注意しなければなりません。
合格率については、2020年1月の国内試験で72%と高い水準になっています。しかし、以降の2020年7月〜2021年4月の試験では34〜47%という結果に。2019年10月のミャンマーで開催された試験は36%の合格率です。
海外試験や直近の国内試験で合格率が低いのは、受験者が日本の旅館・ホテルをほとんど利用した経験がないことも理由のひとつに挙げられます。というのも、合格率が高い2020年1月時点では、主な受験者が「中長期滞在」の在留資格を持つ方でした。
しかし2020年4月に受験資格が拡大され、「短期滞在」の在留資格で入国した方も試験を受けることが可能に。日本での生活経験が少ない受験者が増えることで、相対的に合格率も下がったものと推測できます。つまり日本の旅館・ホテルを利用した経験があるだけでも、試験を優位に進められるのかもしれません。
試験合格後から就労までの流れ
宿泊業技能測定試験と日本語試験(日本語基礎テストもしくは日本語能力試験)に合格した外国人の方は、受入先企業との雇用契約(直接雇用のみ)が可能になります。合格後の手続きでは、外国人本人だけでなく企業からの申請なども必要になるため、事前に行うことを把握しておきましょう。
具体的には、
- 特定技能外国人と受入れ先企業が雇用契約を結ぶ
- 合格証明書の発行申請
- 企業が「1号特定技能外国人支援計画」を策定
- 在留資格の申請
- 特定技能外国人の日本入国、計画に基づいた支援の実施
- 雇用開始
- 受入れ先企業が特定技能協議会への加入
といった流れです。
ただし注意しておきたいのは、特定技能試験に合格した外国人の方が必ずしも在留資格を得られるわけではないということ。例えば、日本での滞在期間が過ぎている不法残留者などは、国内試験の受験資格がないものとされています。
後々その事実が発覚した場合、在留資格の申請が取り消される恐れもあるのです。雇用契約を結んだ外国人の方にも、きちんと確認した方が良いでしょう。特定技能の国内試験における受験資格に関しては、出入国在留管理庁のWebサイトをご参照ください。
合格証明書の発行と特定技能協議会の加入
特定技能外国人を受け入れる際には、企業側も様々な手続きを行わなければなりません。例えば、外国人を採用した後の合格証明書の発行。ここではまず、採用が決まった外国人と受入先の企業が必要な情報を交換し、それぞれが申請フォームに入力して手続きを実施します。
申請に必要な情報は、外国人側が試験の受験番号と氏名、企業側が法人番号と法人名。自社の法人番号を調べたい場合には、国税庁の法人番号公表サイトにて検索してみてください。
受験した外国人の方は、合格証明書申請フォームに必要事項を記入して送信すれば手続き完了です。企業側は、一度申請書類の取り寄せフォームから情報を送信し、届いた書類に必要事項を記入して再び送信します。
そして宿泊業技能試験センターから申請が認められると案内メールが届くため、手順に従って合格証明書の交付手数料10,000円(税抜き)を納付してください。届いた合格証明書は、在留資格の申請を行う際に出入国在留管理庁へ提出する必要があります。
詳しい手順や合格証明書のお問い合わせについては、宿泊業技能試験センターのマニュアルをご参照ください。
また特定技能外国人を雇用するにあたって、受入れ企業はそれぞれの分野に応じた協議会へ加入しなければなりません。入会していないと外国人の受け入れが認められないため、期限となる外国人の入国後4ヶ月以内には必ず手続きを行いましょう。
具体的には、国土交通省のWebサイトから「特定技能所属機関(入会)」の様式をダウンロードし、添付書類と合わせて観光庁の観光人材政策室へ直接郵送します。
添付書類については、
- 報酬等雇用条件に関する書面の写し
- 在留カードの写し
- 返信用封筒と切手
が必要になります。詳しくは「特定技能所属機関(入会)」の様式に記載されている【添付書類】をご確認ください。
特定技能外国人雇用の際の注意点
新たな人材確保の手段として注目を集めている特定技能外国人ですが、雇用する際にいくつか注意点もあります。まず特定技能「宿泊」分野では、簡易宿所営業や下宿営業以外にも、風俗営業法第2条第6項4号に該当する施設での雇用は認められていません。
要するに、日本でモーテルやラブホテルと言われる施設等のことです。詳しい要件については、警察庁の資料に記載されています。
加えて、風俗営業法第2条第3項に規定されている「接待」による業務を外国人に行わせることもできません。例えば、特定のお客様に対する長い時間の談笑、必要以上に体を接触する行為などが該当します。
また宿泊分野では直接雇用のみとなっており、派遣やアルバイトなどの雇用形態は認められていません。派遣が許可されるのは、時期や季節により作業量が大きく変化する農業や漁業分野だけです。
さらに特定技能「宿泊」では、特定技能1号のみの取得が可能になります。そのため、日本で働ける期間は最大で5年間となり、外国人労働者の家族を日本に呼び寄せて生活することも認められていないのです。
即戦力となる外国人を雇用できる特定技能ですが、将来的な労働力としてはあまり見込めません。しかし手段によっては、より長く外国人に働いてもらうことも可能です。その具体的な方法について見ていきましょう。
長く働いてもらうためには「特定活動46号」が必要?
特定活動46号とは、外国人留学生の日本での就職率を高めるため、2019年5月より新設された在留資格です。日本の大学・大学院を卒業した留学生が、その過程で学んだ日本語能力を活かして日本企業に就職することができます。
特定活動46号ではいくつかの条件があるものの、幅広い職種で働ける資格となっており、特定技能14種と比べても引けを取りません。例えば、飲食店の接客スタッフや工場でのライン作業など。もちろんホテルや旅館のフロント業務も可能です。
というのも特定活動46号は、高い日本語能力を活用した翻訳作業や情報伝達などの業務が求められます。日本人スタッフの指示を他の外国人スタッフに伝えたり、外国人客への通訳・接客対応などの役割を担うので、特定の職種に絞られていないのです。
そして在留期間に関しては、「3ヶ月」「6ヶ月」「1年」「3年」「5年」のいずれかに定められますが、通算期間に制限がありません。つまり在留資格を更新し続ければ、特定技能よりも日本で長く働くことが可能です。
特定活動46号の取得要件
外国人の方が特定活動46号を取得するには、学歴や日本語能力などの様々な条件を満たさなければなりません。そもそも特定活動46号は、留学生の日本での就職率を高めることが目的。他の特定活動より雇用の幅が広いといっても、ある程度の水準が求められます。
具体的には、
- 日本の4年制大学を卒業または大学院を修了していること
- 日本語能力試験でN1、もしくはビジネス日本語能力テストで480点以上あること
- 日本語での円滑な意思疎通が必要な業務に就くこと
- 大学や大学院で習得した知識や能力を活用できる業務であること
- 日本人従業員と同等以上の報酬にすること
- フルタイム(常勤)で雇用すること
- 勤務先となる企業の経営が安定しており、今後も継続した事業が見込まれること
などが挙げられます。
学歴や日本語試験に関しては、明確な基準が設けられているので分かりやすいです。加えて大学などで日本語の分野を専攻していた方は、試験の要件を満たす必要がありません。
日本語での円滑な意思疎通とは、前章で述べたような高い日本語能力を活用した翻訳作業や従業員間のコミュニケーションを取り持つ業務のこと。つまり、日本語での意思疎通が必ずしも必要でない単純労働などは認められていないのです。
大学などで習得する知識は分野に応じて異なるため、どんな業務が該当するかは一概に断言できません。しかし出入国在留管理庁のガイドラインでは、一般的な例として商品企画や技術開発、営業や管理業務などが挙げられています。
また常勤での雇用については、特定技能と違い雇用形態まで制限されていないです。フルタイムで働くなら、正社員やパート、アルバイトなどは問われません。ただし特定活動46号は、雇用契約を結んだ企業のみ就労が可能となっており、派遣社員として働くことはできないので注意してください。
さらに特定活動46号を取得する外国人だけでなく、勤務先となる企業の安定性や継続性も要件に含まれます。なぜなら、雇用する外国人へ対価となる報酬が十分に支払えないと、特定活動で働き続けることができないからです。
外国人の幅広い雇用や継続した就労が認められる特定活動46号ですが、その分求められる要件や水準も高くなります。
技能実習2号から特定技能への移行
2020年2月25日、技能実習2号の対象に宿泊業が追加されました。技能実習とは、日本の技術や知識などを開発途上国に広める「国際貢献」という目的で作られた制度。技能実習の在留資格を取得すると、通算で3年間は日本での雇用が認められます。
さらに技能実習2号は特定技能への移行もできるため、技能実習1号・2号の3年と特定技能の5年間を合わせ、最大8年もの雇用が可能です。そして宿泊業が技能実習2号の対象に加えられたことで、これまでより長く外国人が働けるようになりました。
しかも技能実習2号を良好に修了している場合、特定技能への移行に必要な技能試験や日本語試験を受ける必要がなく、外国人材のスムーズな受け入れを実現できます。ちなみに「良好に修了する」とは、技能実習を通算で2年10ヶ月以上修了し、技能検定3級または技能実習評価試験の実技試験に合格することです。
外国人の雇用を検討している企業は、特定技能だけでなく技能実習についても注目しておきましょう。様々な雇用制度を把握しておくことで、計画的な人材確保につながるはずです。では特定技能と技能実習には、具体的にどのような違いがあるのでしょうか。
特定技能と技能実習の違い
そもそも特定技能と技能実習は、外国人を受け入れる目的から異なります。例えば、特定技能は外国人雇用の幅を広げ、深刻化している企業の人材不足を解消することが狙い。各分野ごとに受入れ人数の上限も設けられています。
即戦力となる外国人材を確保する必要があるからこそ、事前に技能試験や日本語試験を行わなければならないのです。そして1人の労働者としての側面が強いため、外国人へのサポートは受入れ企業が直接行う、もしくは登録支援機関に委託して実施。さらに転職することも可能となります。
一方の技能実習は、日本の技術を外国人に伝えることで、開発途上国などの発展に貢献することが目的です。外国人の方はいずれ母国にその技術や知識を持ち帰ることを想定しています。
あくまで見習いという立場になるため、監理団体(商工会や事業協同組合など)による実習生の受入れや支援が行われます。転職についても原則不可能で、受入れ企業が倒産するなどの事態に陥らない限り、同じ場所で働くことになるでしょう。
また外国人を雇用するにあたり、それぞれの制度によって負担する金額も変わります。特定技能では、人材の紹介料や海外の送出機関に支払う費用、登録支援機関への委託費用などがかかるもの。技能実習では、主に監理団体への入会費や監理費などが挙げられます。
もちろん自社で外国人材を見つければ、紹介料なども掛かりません。状況に応じて負担額は異なるため、制度について事前にしっかりと把握しておくことが重要です。
特定技能制度を活用してアフターコロナに備える
特定技能の制度により、外国人雇用の幅は広がりつつあります。しかし制度が作られてから日も浅く、コロナ禍の影響で企業の採用や試験の開催が思うように進められていないのも現状です。
ただ宿泊分野においては、技能実習2号の対象に追加されるなど、雇用の拡大が前向きに押し進められている側面も見受けられます。また特定技能だけだと最大で5年の雇用になりますが、技能実習などの制度も活用することで在留期間の延長が可能です。
より長期的な外国人の雇用を見据えるのであれば、技能実習からの移行や特定活動46号の在留資格についても理解を深めておきましょう。従業員が長く会社に勤めてくれることは、それだけで企業の利益につながります。
今後はコロナ禍の収束とともに経済の回復が予想されるため、人手不足がより顕著になるはずです。事業を継続していくためにも、宿泊業の人材確保の手段として特定技能外国人の採用なども前向きに検討してみてはいかがでしょうか。