特定技能1号の外国人を採用する際には、技能実習の経験があるかを確認することも重要になります。なぜなら、外国人の受け入れや支援を行う上で、企業側に様々なメリットがあるからです。
では具体的に技能実習生としての経験がある方は、特定技能に移行する際にどのような利点があるのでしょうか。今回は、そんな特定技能外国人の雇用に関する事柄について詳しく解説していきます。
『技能実習』経験のある外国人が有利な理由
技能実習の経験がある外国人の方は、すでに日本での生活や仕事を体験したことがあります。そのため日本語でのコミュニケーションがある程度可能であるなど、日本での生活に慣れている傾向です。
これは来日経験のない方と比べると、様々な面で利点があります。では具体的に技能実習の経験がある外国人には、どのようなメリットがあるのでしょうか。詳しく解説してきます。
日本の生活に慣れている
日本と海外では文化や習慣などの違いがあるため、外国人を受け入れる際には初歩的なことから教えなければなりません。例えば、交通ルールの違いや公衆トイレにお金がかからないなど、日本人にとっては当たり前のことでも知らない外国人はいます。
それに国によっては、
- 飲食店で食べ残した料理を当たり前のように持ち帰れる
- 洗剤で洗った食器をすすがない
- 販売されているミネラルウォーターが炭酸水
- チップの習慣がある
などの様々な文化の違いがあるのです。
いきなり特定技能の在留資格で日本に訪れた外国人の場合、こうした様々な事柄を一から教える必要があります。これがすでに技能実習を修了した外国人であれば、日本での常識や文化に触れていることから、生活面で苦労することは少なくなるのです。
もちろん外国人の中には、その基本的なルールや決まりごとはすべて覚えきれていない方もいるでしょう。しかし一度日本の生活に馴染んだ経験があれば、「なぜレストランなどでチップを渡さないのか」「家の中で靴を脱ぐのか」といった疑問にぶつかることはなくなります。
つまり技能実習経験のある外国人は、日本での生活に対する免疫ができているので、知らないことがあってもすんなり納得してくれる可能性が高いのです。外国人を受け入れる企業などとしては、当たり前のことを一から丁寧に説明する手間が省ける大きなメリットがあります。
生活するための日本語には不自由しない
特定技能の在留資格では、ある程度の日本語能力が問われます。これは試験に合格することで能力があると認められますが、実際に日本語でコミュニケーションを取れるかというと別問題です。
特にリアルタイムでの会話に関しては、その場で瞬時に応える必要があるためきちんと話せる人のほうが少ないでしょう。日本人でいうと、英語の点数が高い人でも外国人と流暢に会話できないことなどが良い例です。
しかし技能実習を修了した外国人は、最低でも3年間は日本で生活した実績があります。日常生活ではあまり他人と話さない人でも、職場では業務内容について日本語でやりとりすることも多いはずです。
たとえ流暢に日本語が喋れなくても、技能実習生はこれらの経験から日本人と日常的なコミュニケーションを取ることに慣れています。例えば、普段から使うことの多い単語や一般的な名称を覚えており、意思疎通を図るための言葉を自然と理解しているのです。
また日本語はひらがなやカタカナ、漢字などの文字の表記が多く、その中から日常生活に必要なものだけを覚えるというのは難しいことと言えます。ですが技能実習により日本で数年間の生活を行なっている方は、日常で利用することの多い単語にも慣れているはずです。
技能実習の経験がある方は、こうした日本語での会話などについても、大きなアドバンテージがあるといっても過言ではありません。
技能実習2号を修了していれば特定技能の試験免除
通常、特定技能の在留資格を取得するには、技能評価試験や日本語能力試験を受けなければなりません。
なぜなら特定技能は、日本企業の人材不足を解消するために導入された制度だからです。即戦力となる外国人を受け入れることが目的なので、事前にどの程度の技能をもっており日本語が理解できるかを判断します。
しかし技能実習生としての経験があれば、技能評価試験と日本語試験ともに免除となる可能性が高いです。具体的な要件としては、日本で3年間働いた実績をもつ技能実習2号以上の課程を良好に修了していることが必要になります。
そしてここでいう良好とは、「技能検定3級に合格している」もしくは「その検定に相当する技能自習評価試験に合格している」ことです。そのため単純に技能実習2号を修了していれば良いというわけではありません。
また検定に合格する以外にも、外国人が働いていた技能実習先から実習中の出勤状況や技能などの修得状況、生活態度などが評価されることで良好となる場合も存在します。
ただし技能実習先に評価を記載した書面などを出してもらう必要があるため、特定技能の基準に適合しているかの判定に時間が掛かることも。実習先の評価により試験を免除するのであれば、早めに準備しておくことが大切です。
技能実習時の手取りよりも給与が高いため人材が集まりやすい
技能実習と特定技能では、日本人と同等かそれ以上の報酬を支払うことが義務付けられています。しかし技能実習の場合では一から技能を学ぶことになりますし、日本語をあまり理解できなくて意思疎通が難しい方も多いようです。
そのため比較対象となる日本人と比べて、報酬が低くなってしまうことも。もちろん最低賃金以上の額を支払う必要はあるので、「都道府県ごとに定められている最低賃金」または「特定産業別最低賃金」以上の報酬となる保証はあります。
一方で特定技能は、即戦力となる外国人労働者を求めている制度です。在留資格を取得する際にも試験が行われるため、ある程度の技能水準に達していることが保証されています。
報酬額は技能や日本語能力の高さに応じて上がっていくので、必然的に特定技能の方が給与は高くなるでしょう。外国人の方も同じ職種で働くなら、給与の高いところを選ぶものでしょうから自然と人材が集まりやすくなるのです。
それに特定技能では、自由に転職することが認められています。外国人の中には、金銭面の苦労から日本へ出稼ぎに来ている方も多く、より待遇の良い企業を求めて人材が集まることもあるでしょう。特に最低賃金の高い都市部などでは、特定技能の外国人が集中しやすい傾向にあります。
技能実習生の職種一覧
農業関係(2業種6作業)
職種名 | 作業名 |
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耕種農業● | 施設園芸 |
畑作・野菜 | |
果樹 | |
畜産農業● | 養豚 |
養鶏 | |
酪農 |
漁業関係(2職種10作業)
職種名 | 作業名 |
---|---|
漁船漁業● | かつお一本釣り漁業 |
延縄漁業 | |
いか釣り漁業 | |
まき網漁業 | |
ひき網漁業 | |
刺し網漁業 | |
定置網漁業 | |
かに・えびかご漁業 | |
棒受網漁業△ | |
養殖業● | ほたてがい・まがき養殖 |
建設関係(22職種33作業)
職種名 | 作業名 |
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さく井 | パーカッション式さく井工事 |
ロータリー式さく井工事 | |
建築板金 | ダクト板金 |
内外装板金 | |
冷凍空気調和機器施工 | 冷凍空気調和機器施工 |
建具製作 | 木製建具手加工 |
建築大工 | 大工工事 |
型枠施工 | 型枠工事 |
鉄筋施工 | 鉄筋組立て |
とび | とび |
石材施工 | 石材加工 |
石張り | |
タイル張り | タイル張り |
かわらぶき | かわらぶき |
左官 | 左官 |
配管 | 建築配管 |
プラント配管 | |
熱絶縁施工 | 保温保冷工事 |
内装仕上げ施工 | プラスチック系床仕上げ工事 |
カーペット系床仕上げ工事 | |
鋼製下地工事 | |
ボード仕上げ工事 | |
カーテン工事 | |
サッシ施工 | ビル用サッシ施工 |
防水施工 | シーリング防水工事 |
コンクリート圧送施工 | コンクリート圧送工事 |
ウェルポイント施工 | ウェルポイント工事 |
表装 | 壁装 |
建設機械施工● | 押土・整地 |
積込み | |
掘削 | |
締固め | |
築炉△ | 築炉 |
食品製造関係(11職種18作業)
職種名 | 作業名 |
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缶詰巻締● | 缶詰巻締 |
食鳥処理加工業● | 食鳥処理加工 |
加熱性水産加工 食品製造業● | 節類製造 |
加熱乾製品製造 | |
調味加工品製造 | |
くん製品製造 | |
非加熱性水産加工 食品製造業● | 塩蔵品製造 |
乾製品製造 | |
発酵食品製造 | |
調理加工品製造 | |
生食用加工品製造 | |
水産練り製品製造 | かまぼこ製品製造 |
牛豚食肉処理加工業● | 牛豚部分肉製造 |
ハム・ソーセージ・ベーコン製造 | ハム・ソーセージ・ベーコン製造 |
パン製造 | パン製造 |
そう菜製造業● | そう菜加工 |
農産物漬物製造業●△ | 農産物漬物製造 |
医療・福祉施設給食製造●△ | 医療・福祉施設給食製造 |
繊維・衣服関係(13職種22作業)
職種名 | 作業名 |
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紡績運転●△ | 前紡工程 |
精紡工程 | |
巻糸工程 | |
合ねん糸工程 | |
織布運転●△ | 準備工程 |
製織工程 | |
仕上工程 | |
染色 | 糸浸染 |
織物・ニット浸染 | |
ニット製品製造 | 靴下製造 |
丸編みニット製造 | |
たて編ニット生地製造● | たて編ニット生地製造 |
婦人子供服製造 | 婦人子供既製服縫製 |
紳士服製造 | 紳士既製服製造 |
下着類製造● | 下着類製造 |
寝具製作 | 寝具製作 |
カーペット製造●△ | 織じゅうたん製造 |
タフテッドカーペット製造 | |
ニードルパンチカーペット製造 | |
帆布製品製造 | 帆布製品製造 |
布はく縫製 | ワイシャツ製造 |
座席シート縫製● | 自動車シート縫製 |
機械・金属関係(15職種29作業)
職種名 | 作業名 |
---|---|
鋳造 | 鋳鉄鋳物鋳造 |
非鉄金属鋳物鋳造 | |
鍛造 | ハンマ型鍛造 |
プレス型鍛造 | |
ダイカスト | ホットチャンバダイカスト |
コールドチャンバダイカスト | |
機械加工 | 普通旋盤 |
フライス盤 | |
数値制御旋盤 | |
マシニングセンタ | |
金属プレス加工 | 金属プレス |
鉄工 | 構造物鉄工 |
工場板金 | 機械板金 |
めっき | 電気めっき |
溶融亜鉛めっき | |
アルミニウム陽極酸化処理 | 陽極酸化処理 |
仕上げ | 治工具仕上げ |
金型仕上げ | |
機械組立仕上げ | |
機械検査 | 機械検査 |
機械保全 | 機械系保全 |
電子機器組立て | 電子機器組立て |
電気機器組立て | 回転電機組立て |
変圧器組立て | |
配電盤・制御盤組立て | |
開閉制御器具組立て | |
回転電機巻線製作 | |
プリント配線板製造 | プリント配線板設計 |
プリント配線板製造 |
その他(19職種35作業)
職種名 | 作業名 |
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家具製作 | 家具手加工 |
印刷 | オフセット印刷 |
グラビア印刷●△ | |
製本 | 製本 |
プラスチック成形 | 圧縮成形 |
射出成形 | |
インフレーション成形 | |
ブロー成形 | |
強化プラスチック成形 | 手積み積層成形 |
塗装 | 建築塗装 |
金属塗装 | |
鋼橋塗装 | |
噴霧塗装 | |
溶接● | 手溶接 |
半自動溶接 | |
工業包装 | 工業包装 |
紙器・段ボール箱製造 | 印刷箱打抜き |
印刷箱製箱 | |
貼箱製造 | |
段ボール箱製造 | |
陶磁器工業製品製造● | 機械ろくろ成形 |
圧力鋳込み成形 | |
パッド印刷 | |
自動車整備● | 自動車整備 |
ビルクリーニング | ビルクリーニング |
介護● | 介護 |
リネンサプライ●△ | リネンサプライ仕上げ |
コンクリート製品製造● | コンクリート製品製造 |
宿泊●△ | 接客・衛生管理 |
RPF製造● | RPF製造 |
鉄道施設保守整備● | 軌道保守整備 |
ゴム製品製造●△ | 成形加工 |
押出し加工 | |
混練り圧延加工 | |
複合積層加工 |
社内検定型の職種・作業(1職種3作業)
職種名 | 作業名 |
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空港グランドハンドリング● | 航空機地上支援 |
航空貨物取扱 | |
客室清掃△ |
(注1)●の職種: 技能実習評価試験に係る職種
(注2)△のない職種:作業は3号まで実習可能。
技能実習生同様、特定技能1号にも支援機関が義務付けられている
技能実習には、外国人の受け入れから管理までを実施する「管理団体」というものが存在しています。技能実習生を雇用する企業などは、この管理団体に様々な支援を委託することがほとんどです。
なぜなら企業が独自で技能実習生を雇用する場合には、自社で外国人の受け入れや管理などを行わなければなりません。外国人の入国手続きやその後の申請といった様々な作業に追われて、企業はかなりのリソースが割かれます。
さらに管理団体は技能実習先への監査や指導を実施することで、実習計画に基づいて正しく行われているかをサポートしているのです。
そして特定技能1号にも、企業が外国人の支援を委託できる「登録支援機関」というものが存在しています。こちらの機関は、主に企業が実施する外国人への事前ガイダンスや生活面での様々なサポートなどを代わりに引き受けるもの。委託する内容は支援計画の一部、またはすべてになります。
つまりすでに技能実習で日本の生活を経験していたとしても、特定技能1号で働く際にも外国人は支援を受けることが可能なのです。ただし特定技能2号については、企業や登録支援機関による支援の対象外となります。
技能実習の経験があると、企業が支援を行う上で様々なメリットとなる
特定技能の在留資格を取得する外国人は、大きく分けると技能実習から移行する人、一から試験を受けて資格を得る人などの2種類に分けられます。
これまでに日本で働いた経験や生活したことがあることから、技能実習生上がりの外国人の方が企業側としてもメリットが大きいです。特に在留資格の種類に応じた技能を持っていて、ある程度の日本語を理解できるため即戦力となります。
また日本の文化やルールなどは、海外と異なる部分もたくさんあるもの。その日本での常識的な振る舞いや考え方を知っているだけでも、技能実習を経験した方は大きなアドバンテージとなるでしょう。
受け入れ環境を整える必要はあるものの、特定技能の場合は外国人の支援を登録支援機関に委託することが可能です。外国人の雇用を検討しているのであれば、なるべく技能実習生として日本で働いた経験のある方を採用してみてはいかがでしょうか。