漁業分野は、以前から労働者の高齢化や若者離れなどの理由で、深刻な人手不足となりつつあります。しかし近年では、生産性向上を目指して様々な施策が打ち出されており、新たな人材確保の手段として特定技能にも注目が集まっている状況です。
そこで外国人材のスムーズな雇用を実現するためにも、特定技能の仕組みについて把握しておかなければなりません。今回は特定技能『漁業』の業務や試験内容、外国人を採用する際の流れなどについて解説していきます。

特定技能『漁業』の業務内容

特定技能『漁業』の業務内容

2019年4月から開始された新たな外国人の雇用制度である特定技能。その中でも『漁業』の分野は、水産業に関する様々な仕事に就くことを目的とした在留資格です。これにより即戦力となる外国人材の雇用が可能になり、漁業分野での人材不足を解消します。

この分野では、業務区分が「漁業」と「養殖業」の2つに分けられているのが特徴。特定技能は、基本的に専門的な内容の仕事を取り扱うため、2つの業務で求められる技能や知識なども異なります。

また業務区分の範囲ではないものであっても、同じ仕事に就く日本人が携わる関連業務ついては付随して行うことが可能です。例えば一般的な清掃業務などは、どんな職場でも必要不可欠なもの。それらの関連業務については、外国人材にも柔軟に対応させられます。

特定技能1号「漁業」

特定技能1号「漁業」の業務区分では、主に川や海に出て魚などの海産物を獲るなどの漁業関連の仕事に就けます。沿岸漁業や沖合漁業といった言葉を聞いたことがある人も多いでしょう。漁船に乗り、船長などから受ける指示のもとに業務を遂行します。

具体的には、以下のような業務が対象です。

  • 漁具の製作や補修
  • 水産動植物の探索
  • 漁具や漁労機械の操作
  • 水産動植物の採捕
  • 魚獲物の処理や保蔵
  • 安全衛生の確保

また付随して行うことが可能な業務には、

  • 漁具や漁労機械の点検、換装
  • 船体の補修や清掃
  • ⿂倉や漁具保管庫、番屋などの清掃
  • 漁船へ様々な資材の仕込み・積込み
  • 出漁での炊事や賄い

などが挙げられます。

特定技能「漁業」別外国人労働者分布図
厚生労働省のデータを元にWAQUE編集部作成

特定技能1号「養殖業」

特定技能1号「養殖業」の業務区分では、魚介類などを人工的に育てる養殖産業の仕事に就くことが可能です。主に生簀などの養殖場で魚の飼育や管理、収穫などを行い、育てられた生物などは食用や工業製品として利用されます。

対象となる業務は、以下のようなものです。

  • 養殖資材の製作・補修・管理、
  • 養殖⽔産動植物の育成管理、
  • 養殖⽔産動植物の収獲や処理、安全衛⽣の確保

また付随して行える関連業務は、

  • 養殖⽤の機械や設備、器⼯具等の清掃、保守管理
  • ⿃獣に対する駆除や追払、防護ネットやテグス張りといった養殖場の⾷害防⽌
  • 養殖⽔産動植物の餌となるものの採捕、その他の付随的な漁業

などが一例として挙げられます。

特定技能1号と技能実習制度との違い

特定技能1号と同様に、外国人雇用を目的とした在留資格のひとつに「技能実習」という制度があり、漁業分野においても技能実習生を受け入れています。

技能実習は、外国人が仕事を通じて技術や知識を学び、母国の発展に役立てるもの。しかし人手不足が深刻化している近年では、日本企業の労働力を確保する側面も強くなりつつあります。

例えば、技能実習から特定技能へ移行することが可能な点。これにより、技能実習生として採用した外国人材は、一定の条件(技能実習2号を良好に修了など)を満たすことで、企業に長く働き続けられます。

ただし技能実習と特定技能では、受入れ枠や技能水準、採用の仕組みなどの様々な部分で異なることも多いです。外国人を雇用する際に混同しないよう注意してください。

参照文献・引用元 特定技能外国人材の受入れ制度について(漁業分野)|水産省
 技能実習(団体監理型)特定技能1号
制度の趣旨国際貢献のため、開発途上国等の外国人材を日本で一定期間(最長5年間)に限り受け入れ、OJTを通じて技能を移転する制度一定の専門性・技能を有し、即戦力となる外国人材に関し、就労を目的とした新たな在留資格の創設
在留期間技能実習1号:1年以内、技能実習2号:2年以内、技能実習3号:2年以内(合計最長5年)通算5年まで
外国人材の技能水準なし相当程度の知識又は経験が必要
入国時の試験なし技能水準、日本語能力水準を試験等で確認
技能実習2号を良好に修了した者は試験等免除
送出機関外国政府の推薦又は認定を受けた機関法令上の規定はない
監理団体あり(非営利の事業協同組合等が実習実施者への監査その他の監理事業を行う。主務大臣による許可制)なし
支援機関 なしあり(登録支援機関たる個人又は団体等が受入れ機関からの委託を受けて特定技能外国人材に住居の確保その他の支援を行う。出入国在留管理庁による登録制)
外国人材と受入れ機関のマッチング通常監理団体と送出機関を通して行われる受入れ機関が直接海外で採用活動を行い又は国内外のあっせん機関等を通じて採用することが可能
受入れ機関の人数枠ありなし
漁業職種については申し合わせ事項あり
活動内容技能実習計画に基づいて、講習を受け、及び技能等に 係る業務に従事する活動(1号)
技能実習計画に基づいて技能等を要する業務に従事する活動(2号、3号)(非専門的・技術的分野)
相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する活動(専門的・技術的分野)
転籍・転職原則不可。ただし、実習実施者の倒産等やむを得ない場合や、2号から3号への移行時は転籍可能「漁業」又は「養殖業」の業務区分内において転職可能(業務区分間は不可)

特定技能『漁業』の試験内容

特定技能『漁業』の試験内容

特定技能『漁業』の在留資格を取得するには、同分野の技能試験と全分野共通の日本語試験に合格しなければなりません。主に試験を通して、即戦力となる外国人の技能・日本語水準を図ることが目的です。

ただし例外として、技能実習2号から移行する場合に限り、試験が免除されるケースもあります。すでに日本で数年間の実務をこなしている技能実習生であれば、即戦力として認めやすいからです。

そして特定技能試験については、受験する要件や試験内容など確認しておくべき事項も多いもの。では具体的にどんな内容となっているのか詳しく解説していきます。

受験資格

特定技能『漁業』で試験を受けるには、いくつか満たさなければならない条件があります。主な受験資格としては、以下の通りです。

全試験共通満18歳以上であること
国内試験在留資格(短期在留者でも可)を持っていること
国外試験法務大臣が告示で定める旅券(パスポート)を所持していること

なお国内試験の場合、2020年4月以降から受験資格が拡大されており、短期在留者でも認められるようになりました。これまで中長期在留者のみだった受験資格が撤廃され、在留資格を持ってさえいれば試験を受けられます。

ただ試験に合格した方全員が、資格を取得できるとは限りません。例えば「在留資格を持っていないのにごまかして試験を受ける」といった不正などが発覚すると、資格の取得を取り消されることもあります。

試験水準と試験科目

特定技能『漁業』では、一般社団法人である大日本水産会が実施する「漁業技能測定試験」を受ける必要があります。一定の知識や経験が求められるため、漁業分野で実務に携わっていない場合、確実に試験学習が必要なレベルです。

業務区分によって試験水準が分かれており、

  • 漁業:
    漁船漁業職種の技能実習評価試験(専門級)と同程度の水準
  • 養殖業:
    養殖業職種の技能実習評価試験(専門級)と同程度の水準

となります。

試験の合格率を見てみると、直近の2021年3月で漁業が約67%、養殖業で46%ほど。2021年の実績は漁業の方が合格率は高いです。しかし2020年の試験では漁業の合格率も31〜42%と低く、一概に受かりやすいわけではありません。

漁業技能測定試験 実施結果

試験科目については、「漁業」「養殖業」でそれぞれ学科と実技試験が行われます。同分野における一般知識や安全面、漁具や漁労設備、水産動植物の取り扱いなど、試験範囲も幅広いです。詳しくは、下記の試験学習用テキストの項でご確認ください。

評価方法

漁業技能測定試験では、会場や試験ごとでいくつかの評価方法があります。例えば、国内試験だと、会場に備え付けられたコンピュータによる出題や回答を行うCBT方式が一般的です。

海外試験では、問題文が記載された冊子を読み、マークシートに回答を記入するペーパーテスト方式を採用しています。

また学科試験においては、2択以上の選択肢から正しい答えを選ぶ真偽法で出題。実技試験では、図やイラストを用いて業務のシミュレーションや器具の取り扱いなどを判断します。

日本語能力水準

日本語能力については、他の分野と共通の試験を受けます。具体的には、「国際交流基金日本語基礎テスト」もしくは「日本語能力試験」のどちらかで、一定の基準を満たさなければなりません。

具体的な合格基準は、

国際交流基金日本語基礎テストA2レベル以上
日本語能力試験N4レベル以上

となります。

試験によって条件となるレベルは異なるものの、おおよそ同程度の日本語能力が求められるでしょう。具体的には、ゆっくりとした日常会話ならほぼ聞き取れる、身近な話題の文章であれば理解できる程度です。

試験の日程と会場

漁業技能測定試験の試験日程は、今のところ未定です。過去に行われた実績では、国内やインドネシアで試験が実施されています。特にインドネシアが会場になることも多く、直近では6月の16日・23日に開催。他の試験については以下の通りです。

漁業技能測定試験の開催実績
2021年3月日本(漁業・養殖業)
2021年2月インドネシア(漁業・養殖業)
2020年12月インドネシア(漁業・養殖業)
2020年1月インドネシア(漁業)

コロナ禍の影響もあり、様々な分野の特定技能試験でスケジュールの目処が立っておらず、それは漁業分野でも例外ではありません。試験が開催される1ヶ月前には受験の応募も開始されるようなので、見逃さないよう定期的に大日本水産会のWebサイトをチェックしておきましょう。

試験学習用テキスト

大日本水産会のWebサイトでは、漁業技能測定試験の学習用テキストが無料で配布されています。日本語だけでなく英語や中国語、インドネシア語版もあるため、外国人の方でも学びやすい内容です。

そして学習用テキストは、それぞれの業務区分や科目ごとに用意されています。具体的には以下の通りです。

漁業
  • 漁業一般
  • 漁業安全
  • 漁業専門(網関係)
  • 漁業専門(釣関係)
養殖業
  • 養殖業一般、安全
  • 養殖業専門(給餌養殖関係)
  • 養殖業専門(無給餌養殖関係)

試験問題は、同テキストの範囲内から出題されます。非常に有用な学習資料となるため、ぜひともご参照ください。

特定技能『漁業』就労開始までの流れ

特定技能『漁業』就労開始までの流れ

特定技能『漁業』の外国人を雇用するには、様々な申請や手続きを行います。まず最初に必要となるのが、技能試験や日本語試験に合格した外国人、または技能実習2号から移行する外国人との雇用契約。主に求人応募や職業紹介事業者などを通じてつながります。

雇用契約の締結後は、

  • 外国人へ事前ガイダンスの実施、健康診断の受診などの入国準備
  • 支援計画の策定

などを実施。

そして海外に住んでいる外国人の方は、入国手続きを経て日本へ訪れることになります。具体的には、

  1. 地方出入国在留管理局へ在留資格認定証明書の交付申請(国内在住者の場合、在留資格変更の許可申請)
  2. 在外公館へビザの申請(在留資格認定証明書の提出)
  3. ビザの発給後、日本へ入国

という流れです。

外国人の入国後(在留資格変更後)は、速やかに生活支援や公的手続きなどの支援計画を実行。受入れ機関や特定技能外国人の状況に応じて仕事を開始します。

雇用契約を結ぶ時の注意点

特定技能外国人と雇用契約を結ぶ際には、問題やトラブルが起きないようきちんとした基準が設けられています。もし外国人を受け入れる場合、以下のような点に注意しなければなりません。

  • 特定技能『漁業』における技能を要する業務に就かせること
  • 所定労働時間が同じ職場で働く労働者などと同等であること
  • 報酬額も日本人労働者が働く場合と同じ額にすること
  • 外国人であることを理由に、報酬や待遇などの様々な面で差別的な扱いをしないこと
  • 派遣労働の場合、勤務先や期間が定められていること

要するに、日本人を雇用する時と同じような待遇を心がける必要があります。ただし外国人特有の事情もあるため、その点については配慮しなければなりません。具体的には以下の通りです。

  • 外国人が一時帰国を希望した場合、休暇を取得させること
  • 帰国旅費を負担できないときは、受入れ機関が負担すること
  • 雇用契約終了後、外国人の出国がスムーズに進むための措置を講じること
  • 外国人材の健康や生活状況などを把握するために必要な措置を講じること

漁業特定技能協議会

漁業特定技能協議会とは、同分野の受入れ機関や業界団体、水産庁や国際研修協力機構などで構成された会です。漁業分野に関する事情、外国人材の受入れや人手不足などついての措置を行います。

そして特定技能『漁業』の外国人を雇用するには、

  • 同協議会の構成員になること
  • 協議会で決定した措置の実施
  • 協議会や他の構成員への協力

などが要件として課されるのです。

特に初めて特定技能外国人を雇用する場合、「外国人材の受入れ後から4ヶ月以内」に構成員になるという期限が設けられています。

協議会への申請書類は、水産庁のWebサイトからダウンロードできるため、必要事項を記入し所属している漁業協同組合や団体などを通じて提出してください。

特定技能による人材確保で漁業分野の活性化を図る

漁業分野の人手不足は、年々深刻な状況に陥っています。というのも、就業者の高齢化による退職や漁業専門学校の入学者数が定員割れするなど、単純な人手不足ではなく労働力の循環が悪くなっている状況だからです。

そこで政府は設備や機器の自動化、新たな揚網システムや効率の良い漁船の導入などの様々な施策を打ち出し、生産性向上や人材確保などに取り組んでいます。特定技能による外国人材の雇用拡大もその一環と言えるでしょう。

そして特定技能『漁業』の在留資格で、外国人の方が活躍できる場が広がりつつあります。漁業や養殖業分野の活性化を図るためにも、事業者の積極的な受入れが推し進められるでしょう。