特定技能外国人を雇用する際には、支援計画を策定し、計画に沿って支援を実施しなければなりません。細かい義務事項も雇用や支援についての各種届出書類も多岐にわたります。
本稿では、特定技能外国人の雇用に際し、受入れ機関に求められる義務事項や各種届出書類について詳しく解説します。滞りのない外国人雇用に向けて、ぜひご参考ください。

特定技能外国人の受入れ機関(雇用主)がすべきこと

特定技能外国人の受入れ機関(雇用主)がすべきこと

特定技能外国人を雇用する受入れ機関(雇用主)は、一定の基準を満たす必要があります。基準を満たすには、日本人を雇用するときとは異なる手続きや取り組みをこなさなければなりません。就労ビザに関することなど法律上のややこみ入った知識も必要です。

雇用契約や業務内容については、外国人人材と適切なやり取りをして共通認識を図る必要があります。しかし、言葉の壁がネックとなりスムーズにいかなかったり、トラブルが発生したりするケースもあるようです。

とくに中小企業などでは、手続きや支援の知識面でも、言語コミュニケーションの上でも対応が難しいところが多いかもしれません。その場合は、外国人雇用の支援を行う登録支援機関を介して進めるという選択肢もあります。

自社単独で行うより、專門家のいる登録支援機関に委託して進めたほうが負担は軽くなります。ただ、自社で進める場合でも、登録支援機関を介して進める場合でも受入れ機関に求められることは変わりません。

何をしなければならないのか、基準や義務について詳しく見ていきましょう。

受入れ機関が外国人を受け入れるための基準

特定技能外国人人材を雇用するために受入れ機関が満たすべき基準を解説します。

外国人と結ぶ雇用契約が適切なものでなければならない

従来の外国人雇用では、日本人より人件費を安く設定されるケースも散見されました。しかし、現在の法律では、報酬額は日本人人材が従事する場合と同じか、それ以上を設定しなければなりません。同じく所定労働時間や福利厚生、教育研修などについても、差別的な決定がないかが審査されます。

受入れ機関自体が適切であること

過去5年以内に法律違反があった企業は、外国人雇用をすることができません。たとえば、労働基準法、社会保険、税関連など法令を遵守している企業であることが要件です。

細かく見ていくと、

  • 1年以内に同じ仕事に従事する労働者を解雇した
  • 1年以内に行方不明者が出た
  • 5年以内に出入国や労働法令に違反があった(欠格事由)

などがある場合は、適切な受入れ機関とは認められません。

外国人を支援する体制を有していること

外国人の雇用に際し、入社前、入社後を通して外国人人材を支援していく体制を整えておく必要があります。たとえば、言語面、生活面、日本の習慣に関するものなどさまざまな支援が必要です。また、支援していくための知識と雇用した人材が理解できる言語能力も求められます。

外国人を支援する計画が適切であること

外国人を雇用する際には、支援計画を策定する必要があり、1号特定技能外国人への支援については明確な支援項目が提示されています。入国前の生活ガイダンスの提供や出入国時の出迎えや見送りなどの項目です。こちらについては、以降の「支援計画」の項目で詳しく解説します。

受入れ機関の義務

以下の3つの義務を怠った場合、外国人雇用が不可になるだけでなく、出入国在留管理庁からの指導や改善命令を受けてしまうこともあります。

雇用契約を確実に履行する

締結した契約に沿って、ズレや滞りのないよう履行しなければなりません。受入れ認可/確定後に、対象職種以外の仕事に従事させたり、賃金を引き下げたりすることはできません。

外国人人材への適切な支援を実施する

外国人社員に対して適切な支援を実施する必要があります。支援については登録支援機関への委託も可能です。詳細は「支援計画」の項目でご確認ください。すべて登録支援機関に委託した場合は、上記基準項目にある「外国人を支援する体制があること」も満たすことになります。

出入国在留管理庁への各種届出を行うこと

外国人雇用に際しては、いくつかの処理すべき書類/届出があります。提出すべき届出書類については「受入れ機関(雇用主)が提出する書類」の項目でご確認ください。

協議会への加入義務

協議会は、特定技能制度での雇用における適正な外国人人材の受入れ、保護/支援、また、各分野の人手不足の解消に向けた体制づくりを目的として設置された機関です。

受入れ機関は、特定技能外国人が入国してから4ヶ月以内に、該当する分野の協議会に加入する必要があります。中には、協議会への加入が任意となっている業種もありますし、加入料も業種ごとに異なるようです。現状(2020年3月時点)は、建設業分野以外、ほとんどの業種で加入費用は発生していません。

受入れ体制が整っているかどうかの基準

受入れ体制についても、満たすべき基準が設けられています。この点についても、登録支援機関に委託する場合には満たすものとみなされます。

  • 支援責任者/支援担当者の選任(以下のいずれかに該当)
    • 過去2年間に中長期在留者の適正な受入れ又は管理をした実績がある
    • 過去2年間に中長期在留者の生活相談などの経験者
    • 上記と同じレベルで支援業務を適正に行える役職員
  • 十分に理解できる言語を用いた支援のできる体制を有する
  • 支援状況の文書を記録し、雇用契約終了日から1年以上保管している
  • 支援責任者や支援担当者が、支援計画を中立的に実施(欠格事由がなし)
  • 5年以内に支援計画上の支援を怠っていない
  • 支援責任者や支援担当者が定期的に外国人やその監督者と面談できる体制がある
  • 分野に特有の基準に適合すること

支援計画

受入れ機関は、1号特定技能外国人の雇用に際し、適切な支援計画を策定し、計画に基づいて支援を実施しなければなりません。策定した支援計画は、在留申請の際に併せて提出する必要があります。

支援計画の主な記載事項
  • 省令で定められた10項目についての実施内容や方法など
  • 支援責任者/支援担当者の氏名と役職など
  • 支援を委託する場合の委託者の氏名と住所など
  • 登録支援機関(登録支援機関に委託する場合のみ)

仕事上だけでなく、日常/社会生活上の支援も含まれており指定項目は多岐にわたります。自社で対応が難しい場合は、計画や実施を登録支援機関に委託することも可能です。なお、2号特定技能外国人に対する支援は義務とはなっていません。

では、求められる支援内容の項目を詳しく見ていきましょう。

事前ガイダンス

雇用契約を締結したら、労働条件・業務内容・入国手続き・保証金徴収の有無などについて、対面、もしくはテレビ電話などで説明をしなければなりません。書面郵送や電子メールでの説明は不可です。「在留資格認定証明書交付申請」や「在留資格変更許可申請」をする前のタイミングで行うことが大事です。

出入国する際の送迎

海外に居住する外国人人材が入社に向けて日本に入国する際には、到着する空港に企業の担当者が出向いて、事業所もしくは人材の住居との間の送迎をします。出国の際も企業が出発空港に送り保安検査場まで同行し入場を見届けなければなりません。出国手続きの補助が必要となる場合もあるでしょう。

なお、一時帰国や外国人人材が入社時点ですでに日本で生活している場合は義務対象ではありません。

住居確保・生活に必要な契約支援

日本での住居に関しては、該当人材の希望に応じていずれかの支援を行う必要があります。

  • 住居物件探しや賃貸契約の補助(物件情報の提供、同行、連帯保証/連絡先となるなど)
  • 受入れ機関が不動産業者などと賃貸借契約を結び、人材の合意のもと住居として提供
  • 受入れ機関の社宅を人材の合意のもと住居として提供

企業が提供する場合は、一人あたり7.5m²以上の部屋を確保する必要があり、当然、不当な家賃で搾取してはいけません。自治体への住所登録も忘れずに済ませてもらいましょう。また、銀行口座の開設、携帯電話や電気・ガス・水道などのライフラインの契約などに際しても、案内・同行や手続きの補助が求められます。

生活オリエンテーション

外国人が入国したあとに8時間以上をかけてさまざまなことに関するオリエンテーションを実施しなければなりません。日本での仕事や日常生活を問題なく送れるように情報提供する機会です。人材が十分に理解できる言語で実施される必要があります。

生活一般事項

銀行利用、医療機関利用、交通ルール、公共交通機関利用、生活ルールやマナーおよび違法行為、買い物に関する情報、気象や災害時の情報入手方法などを伝えます。

外国人の就労時に必要な手続き補助

外国人雇用(就労)、居住地、社会保障や税に関する届出や手続きの方法などについての説明、書類作成の補助をします。

相談/苦情があるときの連絡先

受入れ機関の支援担当者をはじめ、市区町村の役所、警察、入国管理局、労働基準監督署、大使館などの連絡先情報を提供します。

該当人材の母国語が通じる医療機関の紹介

通訳設置、もしくは電話通訳サービスが導入されている医療機関の住所や連絡先を伝えておく必要があります。

防災/防犯、緊急時対応について

トラブル対応や身を守る方法、緊急時に警察や消防へ通報する方法、避難指示・勧告の把握方法や避難場所の確認も行いましょう。

法令違反が発覚した場合の企業の対応

入国管理法をはじめ、在留資格、不法就労などに関してはきちんと説明し理解させる必要があります。各種違反や年金受給についての相談先・連絡先も伝えておきましょう。

出入国在留管理庁が公開している外国人のための「生活・就労ガイドブック」も参考になるでしょう。

公的手続等への同行

外国人人材にとって、住居の賃貸契約、社会保障や税関連の手続き、銀行の口座開設など公的な手続きは難易度が高い事柄です。書類作成を補助するとともに、必要に応じて同行することが求められます。

日本語学習の機会の提供

日本での生活に必要な日本語を習得する機会を提供しなければなりません。たとえば、近隣の日本語教室などの教育機関、独学のためのオンライン学習ツールや講座、受入れ機関が日本語講師と契約し講習会を開くなどの方法があります。いずれも、外国人人材の合意や希望が前提で、受講手続きの補助や同行が必要です。

相談・苦情への対応

外国人人材から仕事や日常生活について何らかの相談や苦情があった際には、速やかに適切な対応をしなければなりません。相談や苦情の内容に応じたアドバイスや指導が求められます。関連する機関の案内や手続きの補助・同行が必要です。相談窓口を設置しておくのが望ましいでしょう。

日本人との交流促進

当該外国人が暮らす地域の方々などとの交流に向けた情報提供や機会提供をしなければなりません。公共団体主催の地域イベントやボランティア活動への参加を希望していれば、同行による参加手続きの補助、内容や注意事項などをきちんと理解できるよう説明補助も必要です。

転職支援(人員整理等の場合)

倒産やリストラなど受入れ機関の都合で雇用契約解除となった場合は、継続的に特定技能1号として働き、安定的な生活を確保できるよう支援しなければなりません。

具体的な支援内容としては、以下のいずれかが求められます。

  • 次の受入れ機関に関する情報提供を行う
  • ハローワークや人材紹介会社を案内し、同行や求職補助を行う
  • 当該人材の希望、スキル、日本語レベルなどについての推薦状を作成する
  • 自社で職業紹介の許可を受けている場合は就職先を斡旋する

また、以下は必須事項です。

  • 求職活動のための有給休暇を付与する
  • 離職に係る健康保険や年金などの行政手続きの情報提供をする
  • 自社で支援が難しい場合は代わりの支援機関などを確保する

定期的な面談・行政機関への通報

外国人人材とその上司などの監督者との定期面談を実施しなければなりません。少なくとも3ヶ月に一回の面談が必要です。生活オリエンテーションの再確認、更新情報などを共有します。面談は人材が理解できる言語で行う必要があります。

労働基準法や入国管理法などの規定に対し何らかの違反を知った場合は、速やかに該当機関に通報しなければなりません。

受入れ機関(雇用主)が提出する書類

受入れ機関(雇用主)が提出する書類

特定技能外国人の雇用に際して、受入れ機関が届出なければならない書類は多岐にわたります。届出や提出漏れがあると、のちの外国人雇用に支障が出る可能性があるため、きちんと認識し正確に手配していきましょう。

特定技能雇用契約に係る届出

手続事由特定技能雇用契約を締結・変更・終了したとき
期限発生日から14日以内
必要書類・届出書
・契約内容を証明する資料
・身分を証明する文書(郵送は写し可)
届出先地方出入国在留管理官署
届出内容該当特定技能外国人の個人情報詳細(氏名、国籍など)
新規締結:契約締結年月日と特定技能雇用契約の内容
変更:変更年月日、変更後の契約内容
終了:終了年月日、終了の事由

支援計画変更に係る届出

手続事由1号特定技能外国人支援計画に変更が生じたとき
期限発生日から14日以内
必要書類・届出書
・契約内容を証明する資料
・身分を証明する文書(郵送は写し可)
届出先地方出入国在留管理官署
届出内容1.該当特定技能外国人の個人情報詳細(氏名、国籍など)
2.1号特定技能外国人支援計画の変更年月日
3.1号特定技能外国人支援計画変更後の内容

支援委託契約に係る届出

手続事由支援委託契約を新たに締結・変更・終了したとき
期限発生日から14日以内
必要書類・届出書
・契約内容を証明する資料
・身分を証明する文書(郵送は写し可)
届出先地方出入国在留管理官署
届出内容該当特定技能外国人の個人情報詳細(氏名、国籍など)
新規締結:支援委託契約締結年月日と契約内容
変更:支援委託契約の変更年月日、変更後の契約内容
終了:支援委託契約の終了年月日、終了の事由

受入れ困難に係る届出

手続事由経営上の都合や人材の死亡・病気・怪我・行方不明・帰国などで受入れの継続が難しくなったとき
期限発生日から14日以内
必要書類・届出書
・身分を証明する文書(郵送は写し可)
届出先地方出入国在留管理官署
届出内容1.該当特定技能外国人の個人情報詳細(氏名、国籍など)
2.受入れが困難となった事由、発生時期、原因
3.特定技能外国人の現状
4.特定技能外国人の活動継続のための措置

出入国又は労働に関する法令に関し不正又は著しく不当な行為に係る届出

手続事由出入国や労働に係る法令に関して不正や不当な行為を知ったとき
期限発生日から14日以内
必要書類・届出書
・身分を証明する文書(郵送は写し可)
届出先地方出入国在留管理官署
届出内容1.該当特定技能外国人の個人情報詳細(氏名、国籍など)
2.不正/不当な行為の発生・認知時期およびその行為への対応
3.不正/不当な行為の内容

受入れ状況に係る届出(4半期に1回)

手続事由3ヶ月に一回の受入れ状況の報告
期限翌4半期の初日から14日以内
必要書類・届出書
・身分を証明する文書(郵送は写し可)
届出先地方出入国在留管理官署
届出内容1.期間内に受け入れていた特定技能外国人の総数
2.特定技能外国人の個人情報詳細(氏名、国籍、在留資格カード番号など)
3.特定技能外国人の活動日数、場所、業務内容
4.派遣の場合は、派遣先名と住所

支援実施状況に係る届出(4半期に1回)

手続事由3ヶ月に一回の支援状況の報告
(※支援計画のすべてを登録支援機関に委託した場合を除く)
期限翌4半期の初日から14日以内
必要書類・届出書
・身分を証明する文書(郵送は写し可)
届出先地方出入国在留管理官署
届出内容適合1号特定技能外国人支援計画の実施の状況

活動状況に係る届出(4半期に1回)

手続事由3ヶ月に一回の活動状況の報告
期限翌4半期の初日から14日以内
必要書類・届出書
・届出内容を証明する資料
・身分を証明する文書(郵送は写し可)
届出先地方出入国在留管理官署
届出内容1.外国人人材の報酬決定に際し比較対象として日本人従業員の報酬の支払い状況
2.日本人/外国人別の従業員・離職者・同一業務の新規雇用者・行方不明者の数
3.健康保険、厚生年金、雇用保険、労災保険の適用/手続き状況
4.特定技能外国人の安全衛生関連の状況
5.特定技能外国人の受入れに要した費用額と内訳

特定技能14分野ごとに注意すべき点が異なる

特定技能外国人の雇用や支援についての受入れ機関の届出についてお伝えしました。ただ、厳密には分野ごとに異なる部分もあるため注意が必要です。

法務省のホームページには、14分野ごとに「特定の分野に係る要領別冊」がPDFで発行されています。誓約書や申請書、参考様式なども掲載されているので届出の際の参考にしてください。