求人情報誌に常に掲載される業界のひとつは飲食店業界です。新店オープン時だけでなく毎回求人募集がある飲食店もあり、「常に人手不足?その理由は何?そんなに定着率が悪いの?」といった疑問をもちます。
今回は飲食店業界の人手不足問題にフォーカスし、人手不足になる理由とその改善策、そして次なる解決策についてお伝えします。

なぜ人手不足は飲食業に多い?飲食店が人手不足になる理由

なぜ人手不足は飲食業に多い?飲食店が人手不足になる理由

厚生労働省から発表されている雇用動向調査結果によると、離職率15.3%と最も高い業界は「宿泊・飲食サービス業」です。体感や噂だけでなく公的データからも常に人手が不足している状況が見えます。

人手不足になる理由として一番に挙がっているのは労働時間の問題です。厚生労働省からの産業別労働時間比較の資料では、飲食業が全産業のうち5番目に長い労働時間という結果が出ています。

日々の労働時間が長くてもその分しっかり休日もあればと考え、データを参照すると、有給休暇取得率について飲食業界は全産業のうち最下位という結果です。

これらのデータから飲食店での労働時間、休日についての厳しい状況がうかがえ、人手不足になる理由が明らかになりましたが、その他にも辞めたくなる原因はないのでしょうか。

人が辞める原因

飲食店に限らず従業員が辞めていく一番の原因は、職場内の人間関係にあります。特に飲食店に限って考えると以下の2点が考えられます。

シフト制による不公平感

飲食店の長い営業時間に対応するためのシフト制は、自分にとって都合のよい自由な時間で働けるという点もありますが、自分が望んだとおりにシフトが組まれるとは限りません。入りたいのに入れない、入りたくないのに入れられてしまった、そんな不満は誰もが抱くのではないでしょうか。

また誰もが入りたがらない曜日や時間帯に対し、「自分ばかりがいつも入っている気がする」「不公平だ」そんな思いが高じて辞めてしまい、結果、人が定着しないといったことは残念ながらよくあることです。

厨房vsホールという対立構造

チームワークで進める必要がある飲食店では、調理をする厨房側とホールスタッフ側が協力して仕事をすることが重要です。しかし実際にはその仕事の特性が違うため、誤解や争いは起こりがちなのです。

たとえば、料理のでき上がりが遅く、お客様にクレームを受けた場合、実際にお客様に謝罪しなければならないのはホールスタッフです。またオーダーミスにより厨房の仕事が無駄になることもあります。

それぞれがもう一方のチームに対し不満を抱くことは何度も起こり得ることなのです。我慢できずに言い争いになってどちらかが辞めてしまうということは実際にあります。

あとひとつ付け加えるならば、新人に対する教育が厳しすぎるということも耳にします。接客に関することだけに厳しくせざるを得ないという店側の事情と、人手不足ゆえにいきなり大きな責任を任せられてしまう大きな負担感。こういった悪循環からなかなか抜け出せないという実状があります。

人手不足とクレーム対応の関係

またお客様からのクレームをきっかけに辞めてしまったということもあります。自分に非があった場合は反省もしますが、クレームは自分に非がなくても起こることがあります。

たとえば、人手不足になりがちな時間帯に働く場合、どうしても対応は常にギリギリの状態です。結果、自分は精一杯動いているにも関わらずクレームを受けることがあります。

客側にすれば、料理が運ばれる時間が予想以上にかかっているのだから文句を言いたくなるのも当然です。客数に見合った人数を配置しておくのは店側の責任だと考えているからです。

しかしいくら頑張っても限界はあり、精一杯やっているのにこれ以上は無理と思うこともしばしば。こういった状態が毎回のようにあれば、耐えがたい不満となるのは当然のことです。

また人の入れ替わりが激しく、経験の浅い従業員ばかりといった時間帯も発生します。経験不足からサービスが行き届かずクレームが発生しますが、そのときに相談できる経験十分な先輩スタッフからの具体的な行動の指導が受けられなければ、これは即不満となります。

お客様からのクレームの裏には、元をただせば人手不足が原因ということもよくあるのだということが、ご理解いただけるでしょうか。

飲食店従業員の定着率を上げるための改善策

従業員の定着率を上げるための改善策

ここまででみてきたように、離職につながる職場内の人間関係の問題、個人のミスによらないクレームなどは、いずれも人手不足という問題が根底にあると考えられます。

つまり人手不足が解消され、従業員の定着率が上がれば、人間関係やクレーム対応といった離職となる理由も軽減され、人手不足が慢性的になるという悪循環から逃れられる可能性があります。

ここでは、飲食店の人手不足を解決するより具体的な改善策についてお伝えしていきます。

勤務体制の見直し

飲食店の特性として、ピークとなる時間帯とそうでない時間帯の忙しさの落差が大きいということがあります。こういった時間帯による必要人数を正確に把握し、適正人数を配置しなければなりません。

そのためには労働管理システムを積極的に取り入れ、全従業員に見える化を進め、だれもが納得できるシフト、労働環境を作る必要があるでしょう。

これはパート・アルバイトに限った話ではありません。農林水産省からのデータでは、大学を卒業して飲食業界に入ってきたものの、3年もたたないうちに離職した人は実に半数にも及んでいます。

原因として考えられるのは、シフトの穴埋めに正社員が時間外労働をせざるを得ないといった状況です。これを改善しない限り、店全体のことを考え、任せられる人材はいつまでも育ちません。

有給消化の徹底も含め、勤務体制の見直しを図ることは、慢性的な人手不足を解消するために取り組むべき重要事項、急務といえるでしょう。

対人関係の良好さ

上記の労働管理システムからの改善に加え、着目すべきは人と人との関係です。

飲食店という業界を選ぶ者同士には共通点があります。それは「人と人とのコミュニケーションを通じて自分が成長していきたい」という思いがあること、人から感謝されることに何よりの喜びを感じること。これらの点を満足させ、やりがいを感じさせることが大切です。

新人への指導で、一人ひとりの個性を無視した画一的な対応を求めることはなかったでしょうか。サービスの質の引き上げを求めるあまり、マニュアルを重視していなかったでしょうか。良好なコミュニケ―ションを求めてこの業界に来た新人をがっかりさせていなかったでしょうか。

飲食店は、労働者への依存度が高い「労働集約型産業」であるといわれています。だからこそ、従業員一人ひとりに気持ちよく働いてもらうことがそのままお客様への丁寧で心のこもった対応につながり、ひいては店の利益にもつながっていくことを十分理解することが重要です。

従業員同士、またお客と従業員の間で良好な人間関係ができていれば、おのずと働きやすい職場となり、離職する人は減っていくでしょう。だれもが気持ちよく働きたいという思いは同じなのですから。

飲食店従業員の応募者数を増やすための解決策

従業員の応募者数を増やすための解決策

常に人手不足の飲食店は、この業界に興味があり真剣に仕事していきたいという限られた人材を互いに取り合うということになります。優秀な人材であればよりよい条件を求めて簡単に転職できる状況であるともいえます。

つまり、職場環境や待遇面で、他との差別化を図る必要が極めて高い業界といえるでしょう。

ここでは、選ばれると同時に従業員を選ぶ側でもありたい飲食店になるためにも、従業員の応募者数を増やすためにはどうしたらよいかという解決策についてお伝えしていきます。

福利厚生の充実

飲食店だから土日祝日がないのは当たり前。ゴールデンウィークや年末年始に休めないのは当然なこと。こういったことについては十分理解していますが、いつもそれではなかなか続かないというのも事実です。

長期休暇取得の推奨、正社員が固定した曜日に休める体制など、経験を積んだ従業員を育てるための待遇の改善については、今までの固定概念を見直し改善していくことが求められています。

また、一般的な会社にある住宅手当、退職金、疾病手当などの手当を充実させ、長く働きたいと思える福利厚生の完備にも目を向けるべきでしょう。

このような、これまで不十分だったことを改善することによって自然と他との差別化ができ、選ばれる飲食店となります。より優秀な人材が集まり定着していくためには待遇改善は重要なことなのです。

店舗の雰囲気を発信する

仮に「労働環境も整えた、福利厚生も充実させた、こんなにいい条件なのにどうして人が集まらないのだろう」という飲食店があった場合、そういったお店であることをしっかりアピールできていないのかもしれません。

求人情報誌の限られた字数では魅力は伝わり切りません。また応募者が本当に必要な情報が伝えきれていない可能性もあります。

まずはホームページ(HP)を充実させること。数多くの写真で店の雰囲気を伝え、HP内の求人欄に従業員の年齢層など応募者が知りたい事項をわかりやすく掲載することなど、お客様に向かって発信するばかりでなく、ここで働きたいと思わせることも意識しましょう。

共感する店の理念を作る

HPの内容を充実させるにあたって大切なことがあります。

それは、店の営業方針、食を通じて店を利用する顧客に何を伝えたいのか等、他の店にはない、その店が考える思いをしっかり発信することです。そこに共感し、興味を持ち、「ここで働きたい」と思って応募する人を増やすために必要な情報です。

理念に共感し、応募し、働くことになった従業員は、退職しにくいともいわれます。強い志、期待をあらかじめもっていれば、ささいなことでは辞めないという強い気持ちが生まれるのではないでしょうか。

店の理念をはっきりと提示することは、飲食業界に真剣に貢献したいと考える真摯な応募者を増やす鍵ともいえます。

飲食店の人手不足を解消するには

飲食店の人手不足を解消するには

コンビニの無人化の例を挙げるまでもなく、実際に必要な人員を減らし人材不足を解消する動きはすでに始まっています。

ドリンクコーナーの設置、サラダバーなどはずいぶん前からありましたが、客側が材料を取りに行き、テーブルで調理するセルフサービス型も少しずつ増えています。最近始まった注文のタブレット化などはまたたく間に広がっている感があります。

人手不足を解消する側面として、こうした必要人員を削減することも解決策として視野に入れる必要はあるでしょう。

セルフサービスの導入と雇用満足度

接客サービスの一部を簡潔化することは、人手不足解消になるのはもちろんのこと、人件費削減にもつながります。そうして削減された経費を料理内容の充実にまわすことができ、結果として顧客満足につながるというメリットがあります。

たとえば人件費が抑えられたことにより、リーズナブルな据え置き価格で提供できれば、顧客の満足は高いままです。セルフサービスは飲食店側、客側の双方にとってウィンウィンのいいことずくめのようにも見えます。

セルフサービスのデメリット

しかし実際にこうした人員削減への対策として始まったセルフサービスがかえって効率を悪くするばかりか、新たなクレームを生むという声も聞こえています。

従業員にとって業務の効率を生むセルフサービスも、訪れるお客様にとっては初めての経験です。慣れるまでに時間がかかり、新たに訪れた方に説明し、納得していただくまでに時間と手間がとられるのであれば、かえって非効率という結果になります。

また店側が取り入れたシステムをすぐに納得されるお客様ばかりではなく、「いちいち席を立つのが面倒」「サービス精神が足りない」などのクレームが出ます。クレームへ丁寧に対応すれば、お客様によっては不公平だと感じる結果にもなります。

また、費用対効果も考える必要があります。セルフ化を図ったものの、そのために店内のレイアウトや内装から変える必要が生じ、経費をかけて改善を図った割には効果が出なかったということもないとはいえないのです。

セルフサービス導入時の内装のポイント

セルフサービスを取り入れるにあたって一番に考えなければならないのは動線です。厨房からそれぞれのお客様の席へ、お客様の席から厨房へとそれまでは決まった動線で従業員が動いていた店内のレイアウトを、お客様目線で見直す必要があります。

たとえば、それぞれの席から大勢の人がある目的に向かって動いた場合を考えます。水を注ぎに来る人、料理を取りに来る人、食べ終わった食器を下げに来る人、それぞれが同時になることはもちろんありえます。

  • そのときにお互いがスムーズに動ける流れになっているか
  • 仮に混みあって止まってしまった場合でも十分なスペースがあるか
  • 止まってしまったその場所は他のお客様にとって目障りにならない場所か

などを考えなくてはなりません。

また子どもからお年寄りまでさまざまな人が動くことを考え、事故が起こらないよう動線すべてに対し十分な広さを確保する必要もあります。

注文時のタブレット化

タブレットによる注文方法は、ファミリーレストランや居酒屋、回転すしチェーンなど、ある程度の規模のお店のほとんどは取り入れているといった感があります。

これだけ短い期間で普及したということは、それだけメリットがいくつかあり導入されたと想像できます。が、逆にデメリットはないのでしょうか。

タブレット化のメリット・デメリット

メリットとしての最大のポイントはいうまでもなく、ホールスタッフが注文を取りに来なくてもよくなったということです。その分必要人員が減らせるので人件費削減につながります。

またお客様が自分で画面を見て注文するので、言ったつもり、言われていないといった人的ミスがなくなりトラブルを回避できます。

また最近の傾向としてさまざまな国の人が訪れるようになり、多言語で対応する必要が出てきました。一方で、タブレット化し画像を見て注文できれば双方にとってわかりやすく、注文から厨房へのオーダーまでスムーズに進むようになります。

さらに考えられるのは、お客様のペースで注文することができるということです。ホールスタッフは何度も足を運ばなくてもよいですし、客側もほしいタイミングで追加注文することができます。これらのメリットは業務効率化に確実につながっているといえるでしょう。

しかし、実際に導入されて見えてきたデメリットもあります。

それは、タブレットによる注文が便利だと思えないお客様がいらっしゃること。そういった方たちにとっては注文すること自体が面倒なことになり、注文を減らしたり、ひいては来店をひかえたりということにつながります。

また完全にお客様のペースで注文できるということは、いっときに注文が重なるということが容易に起こり得ます。タブレットで注文したらすぐに厨房で料理の準備がされていると客側は考えますが、実は混みあっていてすぐに対応できないことは多々あるわけです。

注文時に席に伺うことがないため、お客様とのコミュニケーションが減り、混んだ状況を伝える機会が減り、簡単にクレームにまで発展してしまいます。サービス不足といった印象を抱かせ、店のイメージダウンにつながるといったことも十分あり得ます。

タブレット化の導入と費用

このようにタブレットによる注文にはデメリットもありますが、やはり人件費が削減できることは大きなメリットですから、今後も導入する飲食店は増えていくに違いありません。

さて、導入するにあたっての費用はどれくらいになるのでしょうか。

初期費用として必要なものは、機材やタッチパネル、無線ルーター等の設置です。それらを使って動かしていくタブレットシステムの提供会社は複数あり、最安値では端末台数×1,000円で設置可能です。

ただしメニュー内容の入れ換えや、システムトラブル発生時にすぐに対応といったアフターフォローが必要かどうかについても考えなければなりません。チェーン店であれば一括でこういったサービスも受けられますが、個人の店ではオプションとして契約する必要があるでしょう。

かけた費用に見合うだけの効果があるかをよく検討する必要があります。

人手不足時のお詫びと張り紙による対処

最近SNSで話題になったことですが、人手不足の実情を事前に店前に貼り紙で知らせるという対処をした飲食店がありました。

その内容は、人手不足であることを伝え、十分な対応ができないことを事前にまず知らせます。急いでいるお客様については他店へと促してもいます。さらには従業員への過度のクレームをいさめる文言がある場合もあります。

こういった貼り紙による対処についてはさまざまな意見がありますが、理解を求める事前告知はおおむね肯定的に受け止められているようです。この貼り紙により店側と客側の距離が近くなり、店の事情を理解した上での来店なのでクレームは減ることになります。

そればかりではなく、この貼り紙をきっかけにこの店で働きたいという申し出が出ることもあるようです。利益優先ではなく従業員のことも大切に考えている店側の思いが貼り紙を通して伝わるからでしょう。

特定技能外国人の雇用

飲食業での慢性的な人手不足という問題を、原因から解決策までお伝えしてきましたが、そもそもの人手不足を解消できれば、新しくシステムを採り入れるといった費用をかけなくても済むのは言うまでもありません。

そこで今、注目されているのは特定技能という在留資格をもった外国人を雇用することです。

これまでは、単純労働での外国人雇用は法律上不可能でした。10年ほどの実務経験が必要とされる「技術・人文知識・国際業務ビザ」という資格でなければ外国人を雇うことができなかったのです。

しかし法律が改正され、外食業に関していえば、食堂やレストラン、カフェや喫茶店、ファストフード店などでホールスタッフや調理スタッフとして働ける在留資格が新たに設けられました。

この在留資格では、留学生のアルバイトと違い、週に28時間までといった制限がなく正社員として雇うことができます。

特定技能「外食」業の概要

ただし外食業に関した特定技能という在留資格は、誰でも簡単にすぐにとれるというものではありません。

食べものを扱う仕事ですから、衛生管理、飲食物調理、食品衛生管理についての知識や技能が備わっている人物であること、また接客について基本となる日本語力、マナーやおもてなしの心得などを理解し実践できる力が求められています。

こうしたことへの一定のレベルを有しているかの試験が課せられ、合格できて初めて認められる在留資格が特定技能なのです。

個々の店に合った人手不足解消方法を検討しよう

飲食業界での人手不足は深刻かつ慢性的であること、その原因、改善すべきポイント、そして解決策についてみてきました。労働環境や待遇を見直し、今いる人材を確保しておくことももちろん大事ですが、新たな人材を求めるためにどうすればいいのかについての良いヒントが見つかったでしょうか。

また人材不足という状況をシンプルに解決する方法のひとつである、特定技能という在留資格を持った外国人を雇うことをご紹介しました。外国人を雇うことは、店に新たな風を吹き込むことになりばかりでなく、インバウンド対策として必要不可欠という流れもあります。

今後の世の中の動向を考えると、人手不足を解消する以上の効果をもたらす可能性も大いにあります。