2019年に導入された特定技能には、飲食料品製造業という分野があります。ただ一言で食品や飲料の製造に関わる仕事と言っても衛生面や品質管理、設備などの幅広い知識が必要になるので意外と複雑です。
今回の記事では特定技能『飲食料品製造業』で働くことができる仕事から、資格を取得するための試験について詳しく解説していきます。

特定技能『飲食料品製造業』ってどんな仕事?

特定技能『飲食料品製造業』ってどんな仕事?

特定技能の「飲食料品製造業」は、主に食料品や飲料などの製造や加工、安全衛生管理を行う仕事に就くための在留資格です。この分野では直接雇用のみが認められているため、派遣などで雇用することはできません

そして商品を製造するだけではなく、

  • 原材料の受発注
  • 製品の納品や在庫管理
  • 作業場の清掃や事業所の管理

といった関連業務も飲食料品製造業には含まれています。

ただし販売されているすべての飲食料品という訳ではなく、酒類や塩、医薬品や香料などは含まれないのです。では具体的にどんな業種が対象となっているのか、詳しく解説していきます。

飲食料品製造業分野の対象範囲

飲食料品製造業分野の仕事は、多くの業種から成り立っています。具体的には以下の通りです。

引用元 飲食料品製造業分野における外国人材受入れ拡大について(PDF資料)|農林水産省
食料品製造業畜産食料品製造業
例)部分肉・冷凍肉、肉加工品 等
水産食料品製造業
例)水産缶詰・瓶詰、海藻加工 等
野菜缶詰・果実缶詰・農産保存食料品製造業
例)野菜漬物 等
調味料製造業
例)味そ、しょう油・食用アミノ酸 等
糖類製造業
例)砂糖、ぶどう糖・水あめ・異性化糖 等
精穀・製粉業
例)精米・精麦、小麦粉 等
パン・菓子製造業
例)生菓子、ビスケット類・干菓子 等
動植物油脂製造業
その他の食料品製造業
(でんぷん、めん類、豆腐・油揚げ、あん類、冷凍調理食品、惣菜、すし・弁当・調理パン、レトルト食品等)
清涼飲料製造業
茶・コーヒー製造業(清涼飲料を除く)
製氷業
菓子小売業(製造小売)
パン小売業(製造小売)
豆腐・かまぼこ等加工食品小売業(こんにゃく、納豆、ちくわ 等)

例えば食品製造の中でも、畜産食料品は冷凍肉やハム、乳製品などを取り扱っています。調味料製造業では味噌や醤油、食酢などを作っている仕事が当てはまるでしょう。

その他にも清涼飲料製造業はミネラルウォーターや様々なジュース、製氷業では氷やドライアイスなどを製造している仕事です。

また製造だけでなく、菓子小売業やパン小売業など一部の製造小売も対象に含まれます。具体的には、菓子やパン工場などに併設されている直営所などがイメージしやすいでしょう。

飲食料品の製造工程で必要になる知識・技能

飲食料品製造業の仕事では、人が直接口に入れるものなどを作ることも多いため、食中毒や衛生面、製造工程で使用する施設や設備の管理などの知識が重要となります。

では具体的にどんな知識や技能をもった人材を求めているでしょうか。ここからは飲食料品の製造工程で必要となる能力について解説します。

主な食中毒菌や異物混入

まず非常に重要となる項目が、製造した飲食料品による食中毒や異物混入となります。例えば食中毒では有害微生物に関すること、洗浄や殺菌の正しい方法についてです。

異物混入に関しては、異物を検知する金属検出器やX線異物検出器などの取り扱いに関する正しい知識や技能を身につけていることになります。これらの項目を適切に対応できることが飲食料品の製造工程では必要です。

飲食料の衛生的な管理

飲食料品を常に衛生的に管理できなければ、商品として販売することはできません。そうした基準をクリアするためには、原材料の選別から洗浄、製造や保管などの工程で管理基準などを満たすことが重要です。

例えば殺菌を目的とした加熱工程では、95~100℃の温度を10分維持するなどの数値化されたルールに則り作業を行います。飲食料品を安全に提供するためには、これらの衛生的な管理についての知識や技能を持つ人材が必要なのです。

施設の設備と衛生管理

飲食料品の製造では、商品だけでなく利用する施設や設備などの衛生管理も必須事項です。例えば飲食料品の施設や製造工程によっては、高い空気清浄度を維持するクリーンルームなどでの作業もあります。

特に衛生的に気をつけなければならない施設では定期的に空気清浄度を測る、室内の吸排気に関わる設備の点検も重要となります。飲食料品の製造だとこうした施設内外の清掃や点検を正しく行い、常にクリーンな状態を保つなどの管理についての知識などが必要です。

特定技能『飲食料品製造業』の試験

特定技能『飲食料品製造業』の試験

特定技能『飲食料品製造業』の在留資格を取得するには、その分野に関する技能評価試験や日本語能力試験に合格しなければなりません。

速やかに合格するためにも、試験の詳細や手続きなどについてもしっかりと把握して起きましょう。また2019年12月より、飲食料品製造業の特定技能1号試験にはマイページ登録が必須事項となりました。

申し込みはインターネットから行えるので、同分野の試験を運営する外国人食品産業技能評価機構(OTAFF)の「マイページ登録ガイド」からやり方をご確認ください。

では飲食料品製造業の特定技能試験について見ていきましょう。

受験資格

飲食料品製造業の試験では、「試験日において、満17歳以上であること」が受験資格となります。また国外試験の場合だと、インドネシア国籍の方は18歳以上であることが必要になるようです。

国内試験においては、

  • 適正な在留資格を取得して入国していること
  • 法務大臣が告示で定める外国政府の発行した旅券(パスポート)を所持していること

なども満たさなければなりません。

そのため不法入国や不法滞在者、現在ではイランやイスラム共和国の旅券を持っている人は、受験資格のないものとみなされます。

試験の内容

飲食料品製造業の試験は、主に学科と実技の2種類に分かれています。試験時間は合わせて80分。そしてマークシートを利用したペーパーテスト方式で行われます。

学科試験と実技試験の詳しい内容については、以下の表をご参照ください。

学科試験

HACCP等による一般的な衛生管理、労働安全衛生に係る知識を測定します。

特定技能1号技能測定試験 飲食料品製造業国内試験|OTAFF
項目主な内容問題数
(問)
配点
(点)
満点
(点)
食品安全・品質管理の基本的な知識・食品安全の必要性
食中毒に関する知識
25375
一般衛生管理の基礎・作業前、作業中、作業後の衛生管理及び食品安全の心得
・5S活動の取組み
・異物混入管理
製造工程管理の基礎・原材料管理
・製造工程の管理と注意事項
・製品の管理
・アレルギー物質の管理
HACCPによる衛生管理・HACCPとは
・危害要因分析
・HACCP7原則
・HACCP衛生管理の基本
労働安全性に関する知識・職場の危険防止対策
・作業手順と5Sの励行
・異常事態発生時の対応
5525
合計30 100

実技試験

図やイラスト等を用いた状況設定において正しい行動等を判断する判断試験及び所定の計算式を用いて必要となる作業の計画を立案する計画立案試験等により業務上必要となる技能水準を測定します。

特定技能1号技能測定試験 飲食料品製造業国内試験|OTAFF
項目主な内容問題数(問)配点
(点)
満点
(点)
判断
試験
計画
立案
合計
食品安全・品質管理の基本的な知識・食品安全の必要性
・食中毒に関する知識
426530
一般衛生管理の基礎・作業前、作業中、作業後の衛生管理及び食品安全の心得
・5S活動の取組み
・異物混入管理
製造工程管理の基礎・原材料管理
・製造工程の管理と注意事項
・製品の管理
・アレルギー物質の管理
HACCPによる衛生管理・HACCPとは
・危害要因分析
・HACCP7原則
・HACCP衛生管理の基本
労働安全性に関する知識・職場の危険防止対策
・作業手順と5Sの励行
・異常状態発生時の対応など
合計8210 50

日本語試験

日本語試験については、他の分野と共通の試験になります。具体的には「日本語基礎テスト」と「日本語能力試験」の2種類があり、どちらかの試験に合格しなければなりません。

「日本語基礎テスト」は現在、海外のみの実施となっているものの頻繁に開催されているのが特徴。そして「日本語能力試験」は年に2回の実施ですが、開催されている国は86カ国と非常に多いです。

それぞれメリットやデメリットなどがあるため、外国人の方が受験しやすいほうを選びましょう。詳しくは公式サイトをご確認ください。

合格基準

技能試験の合格基準は、学科と実技の合計点数が65%以上の正答率になることです。しかし試験問題の難易度などに大きな偏りがあった場合、農林水産省や試験の実施機関が補正を行い合格か不合格かを判断することもあります。

受験料

2020年度に適用される技能試験の受験料は、税込で8,000円となります。もし実施機構による都合で試験が開催できない場合には、返金することも可能です。

また国外試験では、

  • インドネシアが450,000ルピア(IDR):日本円で約3,244円
  • フィリピンが1,700フィリピン・ペソ(PHP):日本円で約3,623円

ほどの受験料になります。

学習テキスト

飲食料品製造業における技能試験の学習テキストは、一般社団法人食品産業センターで配布されています。実際の試験科目に基づいた内容となっており、試験ではこのテキストの範囲から出題されるのです。

言語は、日本語・英語・ベトナム語・インドネシア語・中国語に対応しています。

試験の手続き

試験を受けるには、いくつかの手順を踏んで手続きを済ませなければなりません。具体的には、登録したマイページにログインして申し込み事項に記入します。入力するのは、主に参加する試験日時や会場などです。

万が一、申し込み数が定員を超えてしまった場合には抽選が行われます。その後、当選結果をメールなどで確認したら受験料を支払いましょう。決済にはクレジット払いやコンビニ払い、口座振替などが利用できます。

そしてマイページから受験票をダウンロードして、その他の必要な持ち物などを準備しながら試験当日を待つことになるでしょう。試験の申し込み方法などが分からない外国人がいる場合、受け入れ機関などがサポートすることもあります。

試験当日の持ち物と注意事項

試験当日には、受験者が持参しなければならない持ち物もあります。具体的には、

  • ダウンロードした受験票
  • パスポートや在留カード
  • マークシートの記入で使う鉛筆や消しゴムといった筆記用具

などです。

受験票やパスポートなどは、本人確認に必要なものとなります。もし忘れてしまった場合、試験を受けることができません。

また国外の会場で受験する際にはパスポートや在留カードの他に、住民票や運転免許証などで代用することも可能です。

合格者発表と合格証書

合格者については、試験を実施している外国人食品産業技能評価機構のWebサイトで受験番号が発表されます。確認できるようになるのは、試験が終わってから約3週間以内となるでしょう。

またすべての受験者に対して、マイページに登録したメールアドレス宛に合否の連絡が送られます。不合格の場合でも届くため、こまめにメールを確認するよう外国人の方に促してください

そして合格者のマイページには、合格証書がアップロードされます。証書の有効期限は10年となるため、急がなくても失効される心配はありません。

しかし合格証書は、日本に入国する際の「在留資格認定証明書の申請」や、日本で行う「在留資格の変更届」などに必要不可欠です。2019年度までは合格証書が郵送されていましたが、2020年度からマイページで印刷できるようになっています。必要に応じて証書を利用してください。

試験日程

試験日の詳細は出始めていますが、今後の新型コロナウイルス感染状況によっては試験の中止・延期があるかもしれません。

いずれにしても、試験の再開時には応募者が殺到する可能性が高いです。外国人の雇用を円滑に進めるためにも、こまめに農林水産省や外国人食品産業技能評価機構のWebサイトをチェックしておきましょう。

場所開催日定員
北海道札幌市2021年7月5日(月)75名
埼玉県さいたま市2021年7月5日(月)98名
2021年7月6日(火)
2021年7月7日(水)
東京都江東区2021年7月18日(日)237名
2021年7月19日(月)
2021年7月20日(火)
石川県金沢市2021年7月15日(木)60名
2021年7月16日(金)
愛知県名古屋市2021年7月14日(水)300名
2021年7月15日(木)
兵庫県神戸市2021年7月7日(水)120名
2021年7月8日(木)
2021年7月9日(金)
福岡県福岡市2021年7月19日(月)324名
2021年7月20日(火)
※試験は抽選制です。試験申込数が定員数以下の場合は、申込者全員が当選となります。
※一次募集で定員に達し、空席が発生しない場合は、その会場については二次募集を行いません。
※受験料の支払は、当選後に可能となります。
二次募集
受験申請期間
2021年6月8日(火)AM10:00 ~ 2021年6月11日(金)PM5:00
二次募集
受験料支払期限
2021年6月17日(木)まで
受験票の発行6月下旬
合格発表8月上旬

マイページ登録が完了している方のみ、試験の申し込みができます。登録には審査があり、最大で5日ほど時間を要します。登録が完了していない方は、早めにマイページ登録を済ませましょう。

特定技能外国人飲食料品製造業に関する相談窓口

特定技能外国人飲食料品製造業に関する相談窓口

特定技能の在留資格は2019年に開始したばかりの制度です。しかも手続きや申請なども複雑なので、外国人の方だけでなく受け入れ機関もすべてを把握できている方は少ないでしょう。

そこで飲食料品製造業の分野では、スムーズな資格取得や受験を実現するために特定技能外国人の受け入れをサポートする相談窓口が開設されています。

お問い合わせは、

  • メール相談:24時間の受付
  • 電話相談:10〜16時の受付

で行うことが可能です。

また電話相談では日本語による受付だけではなく、それぞれの外国語による対応も曜日毎に実施しています。

具体的には以下の通りです。

曜日対応する言語
月曜日ベトナム語
火曜日タガログ語、英語
水曜日タイ語
木曜日タガログ語、英語
金曜日ベトナム語

疑問点などがある方は、ぜひ一度相談してみてください。

試験の内容や時期を把握し、飲食料品製造業の外国人受け入れにつなげる

特定技能『飲食料品製造業』は、日本で販売されている様々な食品や飲料などの製造に携わるための在留資格です。その特性上、衛生面や品質管理などの幅広い知識が必要になります。

特に食品の衛生面については、日本とかなりギャップのある国も存在するのが現状です。特定技能では即戦力となる人材を確保することを目的としているため、外国人の方にはそうした価値観の違いも試験を通じて順応してもらう必要があるでしょう。

また試験は、日本国内だけでなく海外の現地でも実施されています。それぞれの会場で必要となる手続きや持ち物についても、受け入れ機関などが外国人のサポートを行いスムーズな受験につなげましょう。