外国人雇用の際に活用できる助成金があります。外国人人材が対象となる制度に絞ると、残念ながらその数は多くはありません。しかしながら、要件を満たし、うまく活用できれば企業の雇用コストを抑えた人材確保が可能です。
今回は、外国人雇用が対象となる助成金の種類とそれぞれの要件や支給額について解説しています。
外国人雇用で助成金は申請できる?
雇用を支援する助成金は複数存在しています。雇用した人材が外国人だからといって申請できないということはありません。
「特定技能」という在留資格の新設によって外国人の雇用/就労は増えています。しかしながら、この「特定技能」も対象に含まれ、申請可能な助成金の種類は限られるようです。たとえば、キャリアアップ助成金のうち「有期契約社員の正社員化」に対する助成金について、特定技能外国人人材が対象とならない点にはご注意ください。
優秀な人材を確保することや人材不足にお困りの企業は、同時に、財政的にも余裕のない状況のところが多いでしょう。国の助成制度をうまく活用できれば、より少ない負担で組織の人材確保の課題を解決することが可能です。
特定技能外国人材の雇用で申請できる助成金
「特定技能」という在留資格は、すでに一定の技能を有する人材に付与される資格です。人材のキャリア開発は必要としない、と見なされます。つまり、人材のキャリア開発を目的とする助成金であればあてはまりにくいです。
特定技能外国人人材を雇用する企業が対象となる助成金3つあります。では、申請可能な助成金を詳しく見ていきましょう。
働き方改革支援コース
このコース(2019年新設)は、すでに働き方改革に向けた取り組みをしており、さらに人材確保を必要とする企業に対する助成です。策定した計画に沿って新規に人材を雇い入れ、雇用状況・環境が改善した場合に助成されます。以下が支給要件と支給額です。
“働き方改革支援コース”の支給要件
このコースの受給対象となるには、「働き方改革に取り組んでいる」必要があります。働き方改革の活動として認められるのは、すでに助成を受けた企業です。以下の助成金支給決定を受けていない企業は対象外となります。
「時間外労働等改善助成金」(2019年度) |
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・時間外労働上限設定コース ・勤務間インターバル導入コース ・職場意識改善コース |
※「旧職場意識改善助成金」(2017年度)で助成を受けている場合も認められます。
外国人人材の場合、特定技能1号か2号の在留資格をもっていることが要件です。キャリア開発を目的とする技能実習生は対象とならない点にご注意ください。この助成金のコースが雇用の安定を目的とするものだからです。
その他の要件
- 事業主が労働者の適切な雇用管理に努めていること
- すべての事業所において事業主都合の解雇がないこと
- 計画期間中の離職率が30%以下であること
支給タイミングと支給額
働き方改革支援コースの助成金には、2回の支給タイミングがあります。
計画達成助成
申請時に提出した計画が達成された場合に助成があります。
【支給額】 | 新規雇用一人あたり60万円(短時間労働者の場合は40万円) ※上限10名 |
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計画達成助成の要件は以下の2点です。
- 雇用管理改善計画の開始日から6ヶ月以内に新規雇用をして、雇用管理改善を達成
- 計画の「開始日の前日」と「計画期間終了日の翌日」の比較で直接雇用人員が増加
目標達成助成
上記の計画達成助成を受給後、下記の要件を満たすとさらに目標達成助成が受けられます。
【支給額】 | 対象労働者一人あたり15万円(短時間労働者の場合10万円) |
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※下記の1.の増員人数分か計画達成助成算定人数の少ないほう
- 計画開始日の前日と3年後にあたる日の翌日の比較で、雇用保険被保険者数が増加
- 一人目の助成金対象者を雇入れた会計年度の前年度と3年後の会計年度を比較して生産性が6%以上伸びている
賃金規定等共通化コース(キャリアアップ助成金)
このコースは、有期契約社員について正規社員と共通の職務に従事する場合に同等の賃金を支払う規定を新たに策定・適用した企業に支給される助成です。
“賃金規定等共通化コース”の支給要件(すべて満たす必要あり)
【対象企業要件】
- 有期契約社員が正規社員と共通の職務に従事する場合の共通賃金規定を新たに定めた
- 正規雇用労働者に係る賃金規定を導入している
- 賃金規定の区分条件
・有期契約社員と正規社員で各3区分以上
・有期と正規の同一区分を2区分以上設け、1区分以上を適用 - 3.の同一区分での有期契約社員の基本給の時間あたりの額が正規社員と同額以上
- 賃金規定の適用条件を就業規則などに明示
- 賃金規定をすべての有期契約社員と正規社員に適用させている
- 賃金規定等を6か月以上運用している
- 賃金規定適用前から基本給や諸手当を減額していない
- 支給申請日において、当該賃金規定等を継続して運用している
- 支給に生産性要件が含まれる場合は、当該生産性要件を満たしている
【対象者要件】
- 有期契約社員である
条件:共通化の前日から3ヶ月以上前~共通化後6ヶ月以上の継続在籍 - 正規社員と同一区分(等級・号俸)に格付けされている
- 共通化後6ヶ月間、当該企業の雇用保険被保険者である
- 事業主/取締役の3親等以内の親族「以外」の者である
- 支給申請日において離職していない
支給額
中小企業 | 事業所あたり | 57万円 | (2万円) |
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生産性要件を満たす場合 | 72万円 | (2.4万円) | |
大企業 | 事業所あたり | 42.75万円 | (1.5万円) |
生産性要件を満たす場合 | 54万円 | (1.8万円) |
()内は対象労働者2人目以降の助成加算額(上限20名)です。
諸手当制度共通化コース(キャリアアップ助成金)
このコースは、有期契約社員について正規社員と共通の諸手当に関する制度を新たに策定・適用した企業に支給される助成です。
“諸手当制度共通化コース”の支給要件(すべて満たす必要あり)
【対象企業要件】
- 以下の11項目のいずれかについて新たな共通化制度を設けた
(賞与、役職手当、特殊作業手当・特殊勤務手当、精皆勤手当、単身赴任手当、食事手当、地域手当、家族手当、住宅手当、時間外労働手当、深夜・休日労働手当) - 上記の手当について以下の3項目のいずれかに該当する
・1の賞与の場合、6か月分相当として5万円以上支給
・2~9の場合、1ヶ月あたり1手当につき3千円以上支給
・10と11は法定割合の下限に6%以上加算した割増率で支給 - 正規社員に係る諸手当制度を導入している
- 有期契約社員の諸手当を正規社員と同額または同一の算定方法を採用している
- 諸手当制度をすべての有期契約社員と正規社員に適用させている
- 当該諸手当制度を初回の諸手当支給後、6か月以上運用している
- 共通化前と比べて基本給や諸手当を減額していない
- 支給申請日時点で当該諸手当制度を継続運用している
- 支給に生産性要件が含まれる場合は、当該生産性要件を満たしている
【対象者要件】
- 有期契約社員である
条件:共通化の前日から3ヶ月以上前~共通化後6ヶ月以上の継続在籍 - 共通化後6ヶ月間、当該企業の雇用保険被保険者である
- 事業主/取締役の3親等以内の親族「以外」の者である
- 支給申請日において離職していない
支給額
中小企業 | 事業所あたり | 38万円 | (1.5万円)<16万円> |
---|---|---|---|
生産性要件を満たす場合 | 48万円 | (1.8万円)<19.2万円> | |
大企業 | 事業所あたり | 28.5万円 | (1.2万円)<12万円> |
生産性要件を満たす場合 | 36万円 | (1.4万円)<14.4万円> |
()内は、対象労働者2人目以降の助成加算額(上限20名)
<>内は、対象諸手当が複数の場合の2つ目以降の加算額(上限10手当)
日本人なら申請できても外国人は助成金が限定される?
日本にはさまざまな助成金制度があるものの「外国人材の雇用」に対しては申請条件にあてはまっていても審査に通るかどうかは疑問が残るものもあります。申請してみないと分からないというのが実情です。日本人人材を雇用した場合とは明らかな「差」があります。
日本の政策ににじむ国の思惑
国としては、高度な能力を持った優秀な外国人人材には、日本経済を支える人材として日本に残ってもらえることがベストでしょう。その一方で、人手不足の補完をあてにした一時的な単なる労働力としか見ていないような制度内容も垣間見えます。移民は受け入れたくないため期間を定めて母国に帰ってほしいという考えが制度にもにじみ出ているような状況です。
外国人労働者の長時間労働などの社会問題化も原因?
外国人人材の雇用においては、さまざまな問題が「顕著に」顕在化しています。
たとえば、不法滞在や不法就労を見逃し、収入を与えることをエサにして、外国人労働者に過剰な長時間労働を強いたり、本来なら違法な低賃金や賃金未払いのまま働かせたりする悪質な雇用主が存在してきました。
こういった問題が蔓延したことが国内で違法に働く外国人(日本としては増やしたくない類の人)の増加を助長してきたようです。これらの事実も、正当な法制度が制定される足かせになっているのかもしれません。
助成金を上手に利用して特定技能外国人の雇用を!
外国人雇用も対象となる助成金制度は複数あります。各助成制度の要件を企業活動に取り入れ、低い雇用コストで人材不足の解決を図られてみてはいかがでしょうか。