企業が外国人を雇用する際に、最も注意しなければならないことのひとつとして挙げられるのが不法就労と言えます。中には気づかぬうちに不法就労となっているケースもあるため、正しい知識や理解を深めることが重要です。
そこで今回は不法就労の特徴や実際に起こった事例、不法残留に関する問題などについて詳しく紹介していきます。
不法就労とは
不法就労とは、働く許可を得ていない外国人の方が日本で仕事に就いていることです。もちろん法律で禁止されており、不法就労の対象となった外国人やその雇用主、斡旋機関などに厳しい罰則が課せられます。
例えば、
- 雇い主や斡旋機関には3年以下の懲役、300万円以下の罰金
- 外国人事業主は強制退去の対象
- 外国人労働者本人には30万円以下の罰金
などです。
もしも不法就労と知らずに外国人を雇っていても、雇用主である企業が罰則の対象となることも十分にあり得ます。そのため外国人を採用する企業にとっては、最も気をつけなければならないことのひとつと言えるでしょう。
また一言で不法就労といっても事例は様々で、大きく分けると3種類のケースが挙げられます。
具体的には、
- 密入国や在留期限が切れている人が仕事に就いている場合
- 働く許可が降りていないのに仕事に就いている場合
- 入国管理局から認められた範囲を超えて働く場合
などです。
特に受け入れ機関となる企業は、こうしたケースに当てはまらないよう慎重に外国人の雇用を考えなければなりません。後から取り返しがつかない事態にならないためにも、外国人の方との意思疎通をしっかり行い、労働条件などもきちんと検討しておきましょう。
不法就労者の特徴
不法就労として認定されたケースには、様々な国籍や年齢、仕事内容などが挙げられています。例えば法務省が発表した資料によると、平成30年の不法就労事件の総数は1万人ほどです。
国別では、中国、ベトナムが全体の3割程度を占めています。次いで、タイ、フィリピン、インドネシアと上位5カ国で90%ほどの割合です。
性別で見ると男性が6,754人、女性が3,332人と男性のほうがやや多い結果になります。年齢では、20代が4,264人と全体の42%ほどを占めており、やはり働き盛りの若い世代に偏っている傾向です。
そして職種別では、男性で最も多いのが建設作業者の1,818人で、次に農業従事者の1,480人、工員の1,236人と続きます。女性の場合だと農業従事者が1,024人、工員が639人でトップ2となっており、全体で見ると「農業従事者」「工員」「建設作業者」に不法就労が多くなっています。
これらの職種は「単純労働で経験がなくても働きやすい」「技能実習や特定技能の対象なので、すでに就労経験のある外国人が多い」といったように、誰でも即戦力になり得ることや不法在留の外国人を集めやすいことが1つの原因であると推測されます。
不法就労者の雇用主側の罰則『不法就労助長罪』
不法就労者を雇っていると、働いている外国人だけでなく雇用主である事業者も『不法就労助長罪』として処罰の対象になります。罰則の内容は上記でも述べたように3年以下の懲役、または300万円以下の罰金です。
決して軽い罪ではないため、安易な気持ちで外国人を雇用しないよう注意してください。また不法就労助長罪は「外国人が申告していなかった」「こちらから聞いても教えてくれなかった」といって知らなかったでは済まされません。
事業主側にも、外国人の身分を確認する義務があります。具体的な方法としては、外国人が日本で3ヶ月以上滞在する際に必要となる「在留カード」の確認です。
この在留カードには外国人の方の氏名や生年月日などの他に、在留期間や就労制限の有無、資格外活動の許可といった雇用に関する重要な情報が記されています。また法務大臣が認めている証明書やパスポート代わりの許可書となる役割もあるので、信頼性の高い情報源です。
しかし最近では偽造された在留カードが出回っていることもあるため、出入国在留管理庁の失効情報照会サイトで確認することをおすすめします。
不法就労助長罪の事例
不法就労は、企業にとってマイナスイメージにしかならない非常にリスクの高い行為です。ここからはその不法就労の危険性について、実際に起こった事例を交えて説明していきます。
まず記憶に新しいのが、2020年2月に「いきなり!ステーキ」で発覚したケースです。この事例では、一度ビザが切れた外国人材をそのままの状態で再度雇用したことで話題になりました。
具体的には、同社のとある店舗がバングラデシュ人を雇用。2019年10月27日に学生ビザが切れたため、同店舗を辞めました。しかし2019年12月末からバングラデシュ人の方が再び働き始めていたことが問題になっています。
この際に給与の支払いを一旦別のスタッフに振込み、直接手渡しで行なっていたことから、明確な雇用契約は結んでいなかったのではないでしょうか。
年末の忙しい時期に人手が足りないことは、どこの企業にもあり得ることです。だからといって、ビザが切れた外国人材を雇用していては元も子もありません。
また2018年には、とんこつラーメンチェーン「一蘭」で労働時間の超過による不法就労が発覚しました。具体的には大阪にある同チェーン店の2店舗で、ベトナムや中国からの留学生10人が週28時間を超えて働いていた疑いがあります。
この件で当時の社長や労務担当責任者、関係店舗の店長など計7人が書類送検となりました。関係者の中には「法律を知らなかった」「約500人いるアルバイトの勤怠管理が把握できていなかった」などと話していたそうです。
このように外国人の方が就労の許可を得ていても、不法就労になるケースがあります。関係者らが書類送検されたことからも、法律を知らなかったでは済まされません。
いずれのケースも人手不足が原因となっていますが、新しく導入された「特定技能」による人材確保で、少しでもこうした不正が無くなって欲しいものです。
法務省の取り組み『不法就労外国人対策キャンペーン月間』
前述したように有名な企業でも不法就労となるケースがあり、現状では不法残留者の数も少しずつですが増えている状況です。しかし政府はそうした事態に対応するため、様々な施策を打ち出しています。
その一環として挙げられるのが、令和元年6月に実施された法務省の「不法就労外国人対策キャンペーン月間」です。この取り組みでは主に外国人を雇用する事業者に向けて、不法就労に対する理解や防止への協力を求めています。
具体的な活動内容としては、
- リーフレットを用いて外国人雇用の注意喚起などを事業主に行う
- 中小企業団体や商工会議所、行政機関を通じて不法就労防止を呼びかける
- 不法就労に関する研修会や説明会に講師を派遣する
- 地方公共団体と連携した広報活動
などです。
特に外国人の雇用は契約や手続きなどで複雑な部分もあり、全てを理解している企業も多くはないでしょう。そのため不法就労に関する部分を、リーフレット等でわかりやすく紹介しているのです。
これから外国人の雇用を検討している方は、ぜひ一度目を通してみてください。
知らない人が意外に多い?外国人雇用の際に必要な手続き
企業が外国人の雇用で生じる義務は、在留カードの確認だけではありません。外国人の雇入れや離職の際には『外国人雇用状況の届出』の提出も必要になります。
そして届出にはいくつか種類があり、
- 雇用保険に加入して雇入れる際の「雇用保険被保険者資格取得届」
- 雇用保険に加入した方が離職する際の「雇用保険被保険者資格喪失届」
- 雇用保険に加入せず雇入れや離職する際の「外国人雇用状況届出書(様式第3号)」
などが挙げられます。
詳しい書類の様式については、厚生労働省のホームページをご参照ください。
これらの届出では雇用する外国人の氏名や生年月日、在留資格の種類や期間などの様々な情報を入力しなければなりません。ですから必然的に在留カードの確認も行うことになるはずです。
先ほど紹介したラーメンチェーン「一蘭」の不法就労の事例では、労働時間の超過だけでなく、この外国人雇用状況の届出がされていなかったことも問題として挙げられています。外国人を雇用する企業の方は、提出し忘れがないよう十分注意してください。
雇用しようとした人が不法滞在者だったら?
外国人の方を雇用する際に「在留カードの確認ができない」「カードが偽造されているかも」などで不法滞在の疑いがあれば、最寄りの地方入国管理官署に連絡しましょう。
また出入国在留管理庁では、電子メールによる情報の受付も実施しています。新型コロナの影響でまだまだ外出しにくい状態が続いている方は、そちらから連絡することも可能です。
せっかくお金を出して外国人の雇用にこぎつけたとしても、いずれは不法就労だとばれますし、隠したまま雇用していると重い罰則も課せられます。黙って雇い続けても何も良いことはないので、速やかに連絡してください。
“不法残留”に潜む闇
日本では、以前から導入されている技能実習や2019年に新設された特定技能により、外国人雇用の幅が広がっています。しかしきちんとした労働環境が整っていない、正しく雇用契約が結ばれないなどの理由により、不法残留者が減っていないのも現状です。
では不法残留がいることでどんな問題が発生しているのでしょうか。具体的にご紹介していきます。
不法残留者も増加傾向
日本では、不法就労者が依然として減っていない状況です。その理由のひとつとして挙げられるのが、法務省の発表による不法残留者数となります。
具体的には、2019年1月時点の不法残留者数が7万4,167人となっており、前年同月と比べて7,669人も増加。しかも5年連続で増えているのです。
日本に不法滞在しているからといっても、生きていくためには仕事をしてお金を稼がなければなりません。そのため外国人の方は、なんとかして日本で過ごすために不法就労の道に進んでしまうのです。
特に日本へ出稼ぎにきたものの、劣悪な労働環境に耐え切れず失踪する外国人の方も少なくありません。さらに日本で働くために借金をして来日する人もいます。
そうした背景をもつ人は、帰国したくても帰れない状況に陥っており、中には仕方なく不法就労をしてしまうというケースがあるようです。もちろん全て企業の労働環境が悪いというわけではなく、外国人本人にも落ち度がある場合も考えられます。
技能実習や特定技能などが導入され、日本で働ける外国人の幅は広がっていますが、国や企業はこれらの雇用問題にも対応していかなければいけません。
不法残留者から逮捕者も
不法残留が発覚した後、自国へ出国する準備などをしている外国人の方を被退令仮放免者と言います。そして平成30年には、仮放免の中から刑罰法令違反により逮捕された事例が108人いることも判明しているのです。
不法残留者ということで外国人の不法就労とは少しズレますが、中にはこうした二次被害を生むことにもなりかねません。そして特定技能や技能実習といった正規の方法で雇用することこそ、露頭に迷う外国人の数を減らす一番の解決策につながるはずです。
在留カード確認の必要性
外国人を正しく雇用するためには、「ビザが切れていないか」「就労の許可があるのか」などの基本的な情報を知ることが必要不可欠です。届出や申請の手続きが面倒だからといって確認を怠っていると、取り返しのつかない事態に陥ることもあり得ます。
そんな時に外国人の身分を確認するものとして、最も信頼できる情報源に挙げられるのが在留カードです。何度でも言いますが、外国人を雇用する際には在留カードの確認をしっかり行いましょう。
中には偽造されたものを使っているケースもあるようなので、その在留カード自体の信憑性を確認できる出入国在留管理庁の失効情報照会サイトを活用することもおすすめします。
特定技能外国人の支援が負担に感じたら登録支援機関へ委託を
外国人の雇用は通常の雇入れよりも手続きが多く、日常生活における支援も行わなければなりません。そしてこれらの面倒事を避けるためや、急な人手不足に対応するために不法就労で雇ってしまう企業があるのも事実です。
しかし不法就労が発覚してしまうと、決して軽くない罰則に問われ、企業のイメージダウンにつながります。リスクが高く一度落ちたブランドイメージを回復するのは容易ではないため、事業主にとって軽視してよい問題ではありません。
最近では特定技能が導入されたことにより、外国人雇用の幅が広がっています。中には人手が足りない状況に苦しんでおり、外国人の採用を検討している企業もいるはず。そこで特定技能外国人の雇用や支援に負担を感じるようなら、登録支援機関へ委託するのもひとつの手です。
登録支援機関は、外国人材の紹介から出入国や生活面におけるサポートを企業の代わりに実施してくれます。無理のない形で外国人を雇入れるためにも、ぜひ一度検討してみてはいかがでしょうか。