2019年4月に導入された格特定技能には、外食業という分野の在留資格があります。これにより日本の飲食店などでは、単純労働での外国人の雇用が可能となりました
しかし実際には、特定技能を取得するための試験や受け入れ機関に課される義務などがあるため、容易に外国人を採用できるわけではありません。
そこで今回は特定技能「外食業」の概要や試験の詳細、受け入れ機関がすべきことなどについて詳しく解説していきます。
特定技能『外食』ってどんな仕事をする人向け?
特定技能の外食業は、外国人が日本のレストランや喫茶店などで働けるようになる在留資格です。業務内容には調理や接客、店舗管理などが挙げられます。主に日本の飲食店で、ホールスタッフや調理スタッフとして働きたい人向けの資格と言えるでしょう。
これまで外国人が外食業で働こうと思うと、「技術・人文知識・国際業務ビザ」の在留資格を得る必要がありました。ただしこの資格は、10年ほどの実務経験がないと取得できないとの条件があり非常に難易度の高いもの。一から学んでいては、外国料理店などで働くことも難しいのが現状です。
しかし特定技能の外食業では、いわゆる単純労働と呼ばれる業務に就くことも認められているため、日本食のレストランなどで働けます。
主に特定技能(外食業)の対象となっているのは、
- 食堂、レストラン、料理店
- カフェや喫茶店
- マクドナルドやモスバーガーなどのファーストフード店
- テイクアウト専門店
- ピザ屋などの宅配専門店
- 宅配弁当や仕出し料理店
などです。
特定技能『外食業』の対象外も
一方で外食業の対象に当てはまらない例もあります。それは主に調理や接客に携わらない内容となる業務。なぜなら業務内容が外食業に関連しないものであれば、外食業で在留資格を得ている意味がないからです。
例を挙げると、「宅配専門店で配送業務のみをする」「レストランなどで皿洗いや清掃業務のみをする」などが当てはまります。様々な店舗が併設されている複合施設での飲食ブースも対象外となるでしょう。
また内定先が決まっていないと、試験に合格しても「外食業」の在留資格へ変更を行うことができないなどの制約もあります。
外食業特定技能1号技能測定試験の内容
外食業の特定技能を取得するには、この分野専門の技能試験に合格する必要があります。特に外食業では、ほとんどの外国人の方が試験を受けることになるでしょう。
なぜなら現状では、技能実習からの移行が外食業だとほとんどないからです。例えば日本でより長く外国人が働くには、技能実習→特定技能という流れが一般的。しかも技能実習2号を修了してから特定技能に移行する場合、技能試験を受けずに資格を変更できます。
ただし外食業に関しては、外食業に移行できる「医療・福祉施設給食製造」が2018年11月より追加されたばかりです。技能実習2号の修了は最低でも3年かかかるため、2021年頃までは試験を受ける外国人の方がほとんどでしょう。
ではここから外食業の特定技能試験について解説していきます。
試験の実施場所
試験の実施場所については、国内や国外の様々な地域で予定されています。
国内試験では、受験者の利便性や一部の地域に外国人が集中しないよう、全国10都市以上で開催する方針です。2020年2月には、東京都・愛知県・北海道・神奈川県・広島県・福岡県・大阪府・宮城県などで行われています。
国外試験においては、2019年度にも開催場所となったフィリピンやカンボジア、ミャンマーから実施していく予定です。
また今後も開催地域を拡大していく方向性を示しており、試験の環境が整った国から追加されます。中でも関連業界団体のニーズが高いベトナムやインドネシア、ネパールを優先的に進めていく方針です。
ただし現在は新型コロナウイルスの影響により、ほとんどの地域で試験が中止や延期となっています。今後の進捗については、外食業の特定技能1号技能測定試験を運営する「一般社団法人外国人食品産業技能評価機構」のサイトをチェックしてみてください。
試験問題と試験対策
外食業の試験は、制限時間が80分で学科と実技問題が用意されています。実際の試験では、マークシートを利用したペーパーテスト方式で行われるでしょう。
学科試験では、
- 衛生管理
- 飲食物調理
- 接客全般
といった科目に分かれています。
衛生管理は、一般衛生管理やHACCP(衛生水準を改善する管理手法)、食中毒に関することなどです。飲食物調理では調理や食材、調理機器に関することから出題されます。
接客全般では接客サービスや食の多様化、クレーム対応などについての知識を問われるでしょう。問題はそれぞれ10問ずつあり、合計で100点満点となります。
そして実技試験でも、学科と同様の科目から出題されることになるでしょう。問題の内容は、図やイラストを用いて実際の業務シーンなどを想定したもの。これにより、受験者の正しい行動や判断力を測ることが目的です。
試験問題はそれぞれの科目で判断試験が3問、計画立案が2問が用意されており、合計で15問となります。こちらも点数は100点満点です。
これらの試験対策としては、一般社団法人日本フードサービス協会で配布されている学習用テキストが「接客全般」「飲食物調理」「衛生管理」と科目別で用意されています。言語も日本語・英語・ベトナム語・クメール語・ミャンマー語と、様々な国籍の方にご利用いただけるでしょう。
試験日程
試験の日程は、新型コロナウイルスの影響で国内や国外ともに現状未定の地域がほとんどです。特に4〜5月に関しては、他の分野でも中止や延期が相次いでいるため、開催される可能性はゼロに近いでしょう。
今後のスケジュールについては、2020年度内に4回の試験を実施する予定です。これは受験者の規模が、合計15,000〜17,000人ほどになるように想定されたスケジュールとなります。具体的な時期としては、6月・9月・11月・1月頃になる予定です。
国内試験
場所 | 開催日 | 定員 |
---|---|---|
北海道札幌市 | 2021年7月5日(月) | 75名 |
埼玉県さいたま市 | 2021年7月5日(月) | 98名 |
2021年7月6日(火) | ||
2021年7月7日(水) | ||
東京都江東区 | 2021年7月18日(日) | 237名 |
2021年7月19日(月) | ||
2021年7月20日(火) | ||
石川県金沢市 | 2021年7月15日(木) | 60名 |
2021年7月16日(金) | ||
愛知県名古屋市 | 2021年7月14日(水) | 300名 |
2021年7月15日(木) | ||
兵庫県神戸市 | 2021年7月7日(水) | 120名 |
2021年7月8日(木) | ||
2021年7月9日(金) | ||
福岡県福岡市 | 2021年7月19日(月) | 324名 |
2021年7月20日(火) |
一次募集 受験申請期間 ※1 | 2021年5月25日(火)AM10:00 ~ 2021年5月28日(金)PM5:00 |
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一次募集 受験料支払期間 ※3 | 2021年6月3日(木)まで |
二次募集 受験申請期間 ※1※2 | 2021年6月8日(火)AM10:00 ~ 2021年6月11日(金)PM5:00 |
二次募集 受験料支払期間 ※3 | 2021年6月17日(木)まで |
受験票の発行 | 6月下旬 |
合格発表 | 8月上旬 |
国外試験
日本語能力
外食業に限らず特定技能のすべての分野では、共通して日本語試験を受けます。特定技能を取得するためには、「日本語能力試験」「日本語基礎テスト」の2種類ある試験のどちらかに合格することが必要です。
「日本語能力試験」では、試験がN1〜N5の5つのレベルに分かれています。特定技能においては、この下から2番目の難易度であるN4レベルが求められるでしょう。N4は多少の読み書きや日常会話がこなせる程度です。
一方「日本語基礎テスト」は、全ての方が同じ内容の試験を受けて、その中でどの程度のレベルなのかを判定されます。特定技能における合格基準は、A2レベル以上です。内容としては基礎的な日本語のやりとりができる程度と、日本語能力試験とあまり変わらないレベルでしょう。
また「日本語基礎テスト」は、特定技能と同時に作られた制度となります。そのため設立からそこまで時間も経っておらず、試験を開催している国は9ヶ国ほどと少ないのが現状です。
ただし年に2回しか開催していない「日本語能力試験」に比べて、「日本語基礎テスト」は2ヶ月に1回ほどを予定しているなどの違いもあります。
外食業特定技能1号外国人の受け入れ機関がすべきこと
受け入れ機関とは、特定技能を取得して日本へ働きにきた外国人を雇用する企業や法人などのことです。今回の外食業では、主にレストランやカフェといった飲食店、配達飲食サービス業などが該当します。
そして受け入れ機関となる企業などには、外国人を雇用する上で様々な義務が課されるため、しっかりと受け入れ環境を整える必要があるでしょう。では実際にどんな義務があるのか見ていきましょう。
受け入れ機関の義務
外食業分野の受け入れ機関には、いくつかの義務があります。まず基本的なものとしては、外国人へ正当な報酬を支払うなどの結んだ雇用契約を確実に遂行すること。さらに出入国在留管理庁へ様々な届出を行うことが挙げられます。
届出に関しては、新たな外国人を雇用や離職などの際に提出する「随時届出」と、4半期に1回提出する「定期届出」の2種類です。特に定期届出には、「受入れ状況に係る届出」「支援実施状況に係る届出」「活動状況に係る届出」など複数あります。決して忘ることがないよう注意してください。
また受け入れ機関として認められるには、農林水産省や外食業界の団体などで構成される「食品産業特定技能の協議会」の構成員であることも条件です。もしこれまでに外国人の受け入れをしておらず構成員となっていない場合には、外国人の受け入れ日から4ヶ月以内に構成員となる必要があるでしょう。
また受け入れ機関は、協議会や農林水産省が行う外国人の受け入れに関しての調査や指導などに協力する義務も課されます。そのため調査を拒否したり指導を無視して外国人を雇用していると、受け入れ機関として認められないかもしれません。
そして特定技能1号の外国人に対する支援計画については、その取り組みを「登録支援機関」に委託することが可能です。しかし登録支援機関を選ぶ際には、協議会の構成員かつ農林水産省や協議会などに対して協力的な姿勢である組織を選ぶ義務もあります。
支援計画
上記でも述べましたが、受け入れ機関は雇用する特定技能1号外国人への支援を行うことも義務です。支援の内容については、以下のようなものが挙げられます。
- 外国人と受け入れ機関が雇用契約を結んだ後の「事前ガイダンス」
- 出入国する際の空港や海港への送迎
- 住居確保や生活に必要な契約支援
- 日本のルールやマナー、公共交通機関の利用方法などの生活オリエンテーション
- 住居地や社会保障などの公的な手続きへの同行
- 日本語学習の機会を外国人へ提供する
- 外国人の方からの相談や苦情への対応
- 地域の催し物などの案内や日本人との交流促進
- 受け入れ機関に都合により雇用契約解除をする際の転職支援
- 3ヶ月に1回以上の定期的な面談
またこれらの支援には、必ず行わなければならないものから受け入れ機関が任意で実施するものなど様々です。
例えば事前ガイダンスの場合では労働条件や活動内容、入国手続きに関することなどは必須事項となります。しかし入国時に持参すべき物や日本で生活する際に必要となる金額などは、任意での情報提供と言えるでしょう。
登録支援機関への委託
規模の大きい企業は、比較的容易に上記の支援体制を整えることできるかもしれません。しかし中小企業などでは、支援計画の全てを行うことが困難な場合もあるはずです。
そうした外国人への支援が難しい場合には、実施する支援計画の一部や全てを登録支援機関に委託することで義務を果たせます。
ただし、支援計画の作成や具体的な方針を決めるのは受け入れ機関です。必要に応じて登録支援機関が支援計画作成のサポートを行うことは可能ですが、すべてを登録支援機関に丸投げすることはできません。
受け入れ機関の義務や支援を理解し、外食業の特定技能外国人を雇用しよう
特定技能の「外食業」が創設されたことにより、外国人がこれまで働くことの難しかった日本の飲食店などでも雇用の幅が広がりました。そして技能実習に関しても2018年に同じような分野が追加されるなど、飲食店の人手不足解消に力を入れていることが分かります。
外食業の試験についても、2019年度には国内や国外で活発に開催されていました。しかし2020年度は、新型コロナの影響でスタートダッシュが遅れているのが現状です。今のところ6月に開催する予定となっていますが、実際にはさらに先延ばしされることも十分に考えられます。
だからといって悪いことばかりではありません。特にこれから外国人の雇用を検討している企業は、受け入れ環境を整える期間にもなります。そのため受け入れ機関がすべきことを理解した上で、ぜひこの機会を有効に活用してください。