外国人留学生を雇おうと考えたとき、どういったことが心配ですか?
「特別な手続きがいるのだろうか」
「日本人学生を雇うのと同じ感覚でいいのだろうか」
「知らなかったでは済まされない注意すべき点はないだろうか」
考え出せばきりがありません。
今回は、外国人留学生を雇う際にどういったことに気をつければいいのかということに焦点を当てご説明します。

外国人留学生のアルバイト率は高い?

外国人留学生のアルバイト率は高い?

外国人留学生に限らず、学生の多くはアルバイトをしています。実際にアルバイトをする必要があってしているのかは気になるところです。

JASSOの統計資料によると、家からのサポートのみで修学が継続できる状況にある学生の割合は、大学生の場合は約52%、大学院生(修士課程)の場合は約44%といった結果でした。つまり約半数の学生はアルバイトの必要性がないということです。

家庭からの給付程度別・アルバイト従事者の全学生に対する割合(大学昼間部)
日本学生支援機構のデータを元に筆者作成
家庭からの給付程度別・アルバイト従事者の全学生に対する割合(大学院修士課程)
日本学生支援機構のデータを元に筆者作成

では、実際にこういった学生はアルバイトをしていないのでしょうか。

同じ資料によると、アルバイトをしていない学生の割合が大学生では約14%、大学院生(修士課程)では約15%という結果が出ています。この差についてはどう考えればいいのでしょう。

アルバイトをする理由は、お金を得るためだけではありません。社会に出るためのトレーニングと考える学生もいます。実際、就活の面接でアルバイト経験をアピールポイントとして話す学生も多いのです。今やアルバイトは学生にとっては経験しておくべきこと、必須事項といっても言い過ぎではないでしょう。

外国人留学生にとってはどうでしょうか。

日本人学生でこういった結果ですから、両親が海外に住んでいたり、貨幣価値が大きく違う国から来たりしている外国人留学生の場合は、学費や生活費のために必要という理由でアルバイトをする割合はさらに高くなると予想できます。

また外国人である留学生が、日本社会を知り、日本文化を知るためにアルバイトをしたいと考えるのも当然でしょうし、学校からアルバイトをするよう勧められる場合も多いでしょう。

外国人留学生にとってアルバイトは、挨拶やマナー、日本文化に合ったコミュニケーション方法など、実践を通して身につける場でもあるのです。アルバイトが学校の勉強よりも役に立つという声もなきにしもあらず、です。

現場の日本語教師からも、アルバイトをしている学生としていない学生とでは、日本語運用能力の違いが後々大きな差となって出てくるという声があがります。外国人留学生にとってのアルバイトは、日本人の学生以上に意味あること、ためになる経験だといえるでしょう。

在留資格「留学」だけでは働くことができない!

在留資格「留学」だけでは働くことができない!

さて、日本にいる外国人留学生は、実際のところ何人くらいなのでしょう。日本に来てすぐに簡単に皆がアルバイトできるのでしょうか。

文部科学省からの資料によれば、令和2年の外国人留学生は、279,597人です。前年の令和元年よりも約10%減少していますが、依然としてたくさんの留学生が日本に住んでいます。

外国人留学生数の推移
文部科学省のデータを元に筆者作成

新型コロナの影響で入国許可を受けていたにも関わらず来日できず、日本語教育機関へ入学できなかった外国人留学生が数多くいたこと、また日本の大学に短期受入れするインターンシップなどのプログラムも延期や中止になったこと、といった状況から想像すると、思った以上に大きな数字です。

こういった外国人留学生たちはどのような生活を送っているのでしょうか。アルバイトはどの程度できているのでしょうか。そもそも留学生のアルバイトはどの程度してもよいのでしょうか。

資格外活動とは

まず初めに、外国人留学生は一般的にはビザと呼ばれる「在留資格」があって初めて、日本に滞在できているということを理解しなくてはいけません。修学を目的とした「留学」という資格のもとに日本に住んでいるということです。

滞在期間中はこの資格にあった活動しかできず、資格外の方法で収入を得ることは原則禁止されています。

したがって、外国人留学生が修学以外のことをするためには在留資格とは別の許可を取る必要があります。アルバイトは修学とは別の活動とみなされるので、資格外の活動ということになります。

資格外の活動をしたいときには「資格外活動許可申請」を行い、受理されなければなりませんから、日本に来てすぐにアルバイトができるわけではありません。

雇う側は、外国人留学生は学生だから日本人学生と同じようにアルバイトをしてもよいと安易に考えてはいけません。後に説明しますが、留学生だからこその条件や届け出るべき書類などもあるのです。

外国人留学生を雇うときにまず確認することは「資格外活動許可」をすでに持っているかどうかです。在留カードを見て必ず確認しましょう。

万が一、資格外活動許可をされていない留学生をアルバイトとして雇った場合は、本人は不法就労とみなされ強制送還されることもあり得ます。雇い主も、確認を怠った、知らなかったとはいえ違法に雇ったことになりますから罰則が科せられることもあります。注意しましょう。

「特定活動」と「資格外活動」の違い

同じく活動という言葉で「特定活動」というものがあります。特定?何を?と聞いただけはわからない曖昧な言葉ですが、実際にこのカテゴリーに該当する要件は常に変化しているので出入国管理庁のサイトで最新の情報を得るのがよいでしょう。

今現在の状況でいうと、「特定活動」の例として挙げられるのは、

  • 外交官等の家事使用人
  • アマチュアスポーツ選手及びその家族
  • インターンシップ
  • 特定研究活動
  • 特定情報処理活動
  • 日本の大学卒業者及びその家族

です。

これらに加え、最近の流れとして新しく加わった

  • EPA看護師候補者からEPA看護師への変更希望者
  • EPA介護福祉士候補からEPA介護福祉士関連への変更希望者

もあります。

一時的な理由で滞在するためや、在留資格変更の準備期間に適用させるためのものといった性格が見受けられます。

他にも、大学等を卒業した外国人留学生の就職活動が「特定活動」として認められることもあります。最近では、技能実習から特定技能に在留資格を切り替える移行期間の在留資格として適用されることもあります。

また、帰国を決めたがコロナの影響で帰国便の確保がままならず、帰国できるタイミングを待つことも「特定活動」として認められたこともありました。こういった場合、その期間はそれまでに持っていた条件と同じ内容になるようです。

外国人留学生であれば、「特定活動」の期間中も週28時間までアルバイトができるとのことでした。

いずれにせよ、「特定活動」はそのときどきで変更が多く、結果的に流動的、調節弁的な在留資格なので必ずその都度調べることが重要です。

一方「資格外活動」とは、本来の在留資格ビザ要件にない活動によって収入を得る場合の活動をいいます。先に述べた外国人留学生にとってのアルバイトもそうですが、他にもさまざまなケースがあります。

たとえば、「興行」の在留資格を持つ者が、セミナーやワークショップで収入を得る場合や、「家族滞在」の在留資格の者がアルバイトをする場合などです。この「資格外活動」については本来の活動に支障のない範囲内の活動とされるため、時間に制限があることが多いようです。

「特定活動」は短期であることが多いとはいえ、独立した在留資格であるのに対し、「資格外活動」は初めに何らかの在留資格があるという要件が整ってこそ、そこに加えられるものです。したがって、来日前に申請することはできず、来日後申請し許可を得ることになります。

外国人留学生をアルバイトで雇用するときの注意点

外国人留学生をアルバイトで雇用するときの注意点

外国人留学生にとってのアルバイトは、留学という本来の資格からすれば資格外の活動にあたるということはわかっていただけたでしょうか。実際に外国人留学生によって成り立っている業種もあることを考えると、実情に合わない名前のようではあります。

ここからは、実際に外国人留学生をアルバイトとして雇う場合、どういったことに注意する必要があるかをお伝えします。

外国人留学生アルバイトの労働時間

外国人留学生の場合、アルバイトできる時間は週に28時間という制限があります。長期休み期間であれば1日に8時間、週に40時間まで仕事ができます。

しかし実際にはもっと働きたいという声が外国人留学生からあり、人手不足だという現状も雇用側にあり、それ以上働いてもいいか、働かせてもいいかといった声があるのも事実です。では、双方の合意があれば問題ないのでしょうか。

週28時間以上働いたらどうなる?

結論をいえば、問題です。28時間を超えてアルバイトをした場合は、法律を守らず仕事をした、させたということになり、外国人留学生にとっても雇用側にとっても不利益なことが起こり得ます。

外国人留学生にとっては、週28時間以上働いていることがデータとして記録され、ビザ更新時にビザが更新されない可能性が高くなります。更新されないということは、本来の在留資格である「留学」という在留資格を失うということです。当然学校は退学となり、在留資格を失った後でもアルバイトを続ければ不法滞在者となります。

実際にこういったことを耳にするのは、残念ながら決して少なくはありません。夢半ばで帰国することになるので外国人留学生本人もがっかりでしょうが、学校側も学校としての評判が落ちることなので、当然こういったことのないように厳しく管理する場面も出てきます。

また、卒業を控え、就労ビザを申請する状況になっても決して安心ではありません。過去に週28時間以上働いたという事実があった場合、それを理由に就労ビザがおりなかったと聞いたことがあります。本人にとって将来への計画が狂う大事件ですが仕方ありません。

外国人留学生だけでなく、雇用側も処罰対象になります。処罰内容は「不法就労助長罪」です。3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科せられます。

アルバイトの掛け持ちは慎重に

こういった規定についてもちろんわかっていて、かつ厳しく学校から注意されているにも関わらず、週28時間という制限以上に働こうと考える外国人留学生も少なからずいます。銀行振込ではばれるから手渡しで給料をもらっているから大丈夫といった話がまことしやかにささやかれていることもあります。

しかし実際に外国人留学生とかかわる者の間では、それはもう昔の話だとされています。今は必ずばれる、出入国在留管理庁は学生一人ひとりのかなり正確なデータを瞬時に出すことができると考えています。

そう考えるのは、出入国在留管理庁がひとりひとりのアルバイト状況がわかるようにシステムがすでに変更されているからです。

ひとつには外国人登録証から在留カードに変わったこと。このカードの情報は、入国管理局、各市町村役場、そしてハローワークなどで共有されます。加えて今はマイナンバーカードもあります。

その結果、今では数分でひとりの学生の情報を照会できるようで、就労ビザが不許可になった理由を入国管理局に聞きに行った専門学校の進路担当者が、週28時間を明らかに超えている就労状況を示す数字を見せられ、何も言えなかったという話も聞きました。

留学生であっても外国人雇用状況の届出は必須

こういった数字、データが出たということは、雇う側の申告が細かくされていたということでしょう。それが「外国人雇用状況の届出」です。

この届出は、外国人を雇用した場合にハローワークに出向き、するものです。在留資格が「外交」「公用」「特別永住者」以外の外国人すべてが該当し、正社員であってもアルバイトであっても届け出る必要があります。

したがって、外国人留学生の場合も届出されることになります。

届け出る内容は、氏名、在留資格、在留期間、生年月日、性別、国籍・地域、資格外活動許可の有無、在留カード番号、事業所の名称・所在地などです。こういった届出が必要とされれば、事業者側はその内容すべてを外国人本人に尋ねることになりますので、うっかりして聞いていなかった、というミスはなくなります。

またこの届出は雇い入れ時だけでなく、離職のときも必要です。その結果、在留カード番号をキーに辿って行けば、外国人留学生の就労履歴を簡単にたどれることになります。

社会保険の適用

外国人留学生への社会保険については、加入の必要はありません。週28時間という制限内で働くので、社会保険が適用されるだけの就労時間を満たさないからです。この理由により、原則として労災保険以外の社会保険は適用外です。

健康保険/厚生年金

加入条件に該当するだけの就労時間に満たない外国人留学生は、事業所の健康保険、厚生年金に加入することはできません。したがって外国人留学生の場合は国民健康保険、国民年金に加入することになります。

雇用保険

全日制の教育機関に通う留学生は、雇用保険加入の対象にはなりません。失業時の救済措置としてある雇用保険ですが、昼間部の学生はこういったセーフティーネットは必要ないという考えからです。

一方、夜間部に通う外国人留学生の場合は「週当たりの労働時間が20時間以上」で、かつ「同一の事業者に31日以上雇用される見込み」であれば、雇用保険加入の対象になります。

労災保険

この保険は、業務上に起こった事故等に対して支払われる保険なので、すべての労働者に適用されます。アルバイトの外国人留学生ももちろんその対象です。

源泉徴収

源泉徴収は、アルバイトやパートの給与からあらかじめ一定の税率で税を徴収、つまり引いて残りを給与とすることをいいます。これは企業が義務として行うものです。しかし給与を引かれる側にとっては嬉しいものではなく、こういった事情のわからない外国人留学生には特に丁寧な説明が必要でしょう。

税率は、居住者か非居住者かの区分けによって変わります。この点についてもきちんと説明する必要があります。

居住者(滞在予定期間1年以上)

滞在期間が1年以上になった外国人留学生の場合は、一般の日本人と同じように「給与所得の源泉徴収税額表」に基づいた税率で、給料支払い時に源泉徴収されます。

非居住者(滞在予定期間1年未満)

来日後まだ日が浅く、滞在予定期間が1年未満の外国人留学生の場合は、原則として20.42%という税率で源泉徴収されます。

租税条約

留学生の出身国によっては、租税条約により源泉徴収が免除される場合があります。

日本と留学生の出身国との間で租税条約が結ばれている場合は、「租税条約に関する届出書」を提出すると源泉徴収が免除になります。ただし届出は支払日の前日までということに注意してください。届出先は、納税地の所轄税務署長です。

外国人留学生と気持ちよい雇用関係を結ぶためには

アルバイトとはいえ、縁あって外国人留学生を雇い入れる場合には、双方、誤解のないよう気持ちよく共に仕事をしていけるのが何よりです。

そのためには、外国人留学生側は資格外活動であるアルバイトができる条件を整えて臨むことが大切です。事業者側は、後々双方にとって問題となることが起きないよう、尋ねるべきことは尋ね、届け出るべきことはきちんとすることがお互いへの信頼のもとになります。

それに加えてもうひとつ。留学生本人にも丁寧な説明をしてほしいと考えます。特に社会保険や源泉徴収に関することは、日本の社会システムを理解する上で何よりの教材になります。

日本語が不十分だから無駄という考えも理解できますが、大事なことだから伝えなくてはならないという事実は、相手が外国人だからといって勝手に変えてはいけないでしょう。

留学生が所属する学校がそのあたりをするのであればよいですが、そうでなければ通訳をそのときだけでも雇ったり、人材派遣専門の会社にこういった説明や手続きすべてを依頼したりなどの対応も必要かもしれません。

外国人留学生と雇うということは国際交流の一環ともいえます。人と人との交流という意味でも、誠意をもった正しい対応でお願いします。これは外国人留学生側にももちろん望むことです。